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 東京にいる夢を見た。友達がうちに遊びに来ないかと誘ってくれたが、私は帰る時間が遅くなることを気にして、帰りたくなさそうにしている。友達は私好みのシャネルのパンツを履いていた。その状況がなぜか今の自分とは遠いことのように感じた。変な夢だった。

 今日は
Liquñeに滞在する最後の日である。朝、外で洗濯物を洗っているマルガリータにお礼を言って、いつものようにウィニーとタタの家に向かった。
朝ご飯を食べて、家の掃除をしていると雨音が聞こえた。
ここは雨が一年中よく降る場所らしい。雨は次第に強くなり、しばらく家の中で雨宿りした。

 夕方、彼らが友達の家を訪ねるというので一緒に出かけた。家には傘がなかったので、持って来たシャンプーハットを被って雨の中を歩いた。
村の方へ下ること
20分、ホビタさんの家に着いた。
シャンプーハットを被っているのをすっかり忘れていて、彼らが私の頭の方ばかり見て笑うのを見てやっと気がついた。シャンプーハットを被っていると友達が出来やすい。




 ホビタさん一家は、旦那のマヌエルさんと、息子のビクトルとテムコに住む娘さんの4人家族だ。さっそくジャガイモを揚げた料理を振る舞ってくれた。ジャガイモがこんなに甘いものだということを初めて知った。

 マヌエルさんと息子のビクトルは、木材を使った仕事をしている。この村ではほとんどの家族がこの木材を使った仕事をしている。
ビクトルが離れにある工房を案内してくれた。雨が降っていたので、頭を覆うようにとバスタオルを貸してくれた。
工房の中は暖炉が炊いてあり温かく、木の贅沢な香りが充満していた。
彼は自分がどのように仕事をしているのか見せてくれた。普段は森の中の橋を造ったりしているようだが、このような雨の日には、工房で民芸品を作っている。いくつか作品を見せてもらったが、どれも手作りで温かみがあるものばかりだった。
これらはサンティアゴで売られているらしい。

ビクトルに昔からお父さんと同じ仕事がしたかったのか聞いてみた。

『ぼくは軍の仕事をするのが夢で、プエルトモンの学校へ何年か通ったあと、その仕事に就いて働いていたんだ。でも、毎日同じことの繰り返しに疲れたのと、ぼくが先住民だということで散々差別を受けて辞めたんだ』

私は彼が辛かった時のことを話してくれた勇気が素晴らしいと思った。

『今はこの仕事はぼくの天職だと思ってる。毎日が楽しいよ』

 工房の中にいる彼は、部屋の中にいるときより随分逞しく見えたし、とても似合っていた。工房を出ようとしたとき、彼は彼が作った魚の形をした小物入れと、木じゃくしをプレゼントしてくれた。

Un recuerdo』(思い出に)



この小さな村で彼はずっと働き続けるだろう。なんとなくそう思った。
最後に『また戻って来てください』と言ってくれた。
どんな職業でも、どんな場所でも、誇りを持って仕事をしている人生は美しいと思った。

 家に帰る途中、雨の夜道を歩いている人を車に乗せた。
彼女はスザンナという名前で、村で豚肉を売っている女性だった。
家の近くまで車で
15分ほどかかった。辺りは街頭もなく、今日は星も月も出ていない。車のライトを消すと真っ暗だった。目をつむっているのとほとんど何も変わらない。
彼女は毎日
2時間以上かけてこの山道を歩いている。今日みたいな真っ暗闇の中を歩く時は、川を流れる水の音などを頼りに前へ進むという。とても想像出来なかった。

 タタはスザンナを家の近くまで下ろすと、『
Gracias(ありがとう)と言った。『スザンナを運んでくれる車があってくれて、ありがとう』と繰り返した。

 家へ戻ると、牧師と近所の村人が集まって熱心に聖書を読み上げていた。
しばらく羊小屋の前で佇み、静かになってから入り口の扉を開けた。
この村には病院がない。健康を守るのは神様であると誰もが信じている。自分の命のように信仰を大切にしているのだ。


私のいる部屋では、軒下から最近生まれたばかりの子犬が鳴いている。明日はプエルトモンへ行く。

ERIKO