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-日本の友達Nancyからチリに住むシーロへの手紙-
7年前に、同じアルバイト先で一緒に働いていたNancy(日本人)という女性に、私は約3年間、英語のレッスンをしていた。週に1回のレッスンで、彼女は一度も宿題を忘れたこともない、とても真面目な生徒だった。
勉強を始めて何年か経った時、彼女の心の中では、海外で英語を学びたいという気持ちが芽生えた。しかし保守的な彼女は、仕事を辞めて海外へ行くという1歩を踏み出す勇気を持てずにいた。それに加え、彼女はこの時付き合っていた彼と婚約もしていた。
ある日のレッスンで彼女は突然、『イギリスに留学する』と私に言って来た。仕事も辞めて、3ヶ月イギリスのケンブリッジに語学留学するという。
彼女にとっては本当に大きな決断だっただろう。しかし、行くと決めてから出発まではあっと言う間だった。私は彼女に、
『どんなに苦しくても、日本語は話さないように』とだけ伝えた。
でも内心、シャイで内気な彼女だから、きっと日本人の輪の中に入ってしまうのではないかと思っていた。
3ヶ月後、日本へ帰って来た彼女は、立派に英語が話せるようになっていた。話を聞くと、留学先の学校で仲良くなりいつも一緒に行動していた友達が、チリ人やコロンビア人で、英語を話さなければならない状況がいつもあったと言う。私は彼女の内に秘めた芯の強さをとても美しいと思った。
彼女がケンブリッジにいる間、とても仲良くしていたという、チリに住むシーロという男性への手紙を日本を出発する前に預かった。今日はそれを彼に届けに行った。出会った場所はBellavistaというレストランやカフェが密集している地区だった。約束した場所に、キャップを被りリュックを背負っている男性を見つけた。シーロは私に会うなり、英語を使って懸命に話してきたが、私がスペイン語を話すことが分かると、急にリラックスした表情になり、嬉しそうに話し出した。
シーロにとってNancyは初めて親しくなった日本人だったようで、彼女の真面目さをとても褒めていた。一緒に勉強していたという、イキケという場所に住むクリスティアンへの手紙も預かっていたので、一緒に渡した。
シーロはNancyにお礼がしたいと言って、プラザの中にあるたくさんの民芸品店で、彼女が喜びそうなものを時間をかけて一生懸命探し、ポストカードにメッセージを書いて、私へ渡した。
Nancyへ
Ciroは今、エンジニアとしてチリのサンティアゴで働いています。CristianもCiroも、Nancyのことを今でもとても大切に思っていて、いつか世界のどこかで会えるのを楽しみにしています。
実は私は、来週Puerto Monttという場所へ行くのですが、彼の妹が住んでいて、会えることになりました。Ciroから手紙を預かったので、楽しみにしていて下さい。彼はいつか日本へ行ってみたいと話していました。
Nancyが思い切ってした人生の決断は、きっと心の扉を広く開けてくれたんだと思います。最後にCiroが大切にしている言葉を・・・
“Lento,pero sin pausa”
(ゆっくり、でも休まずに)
素敵な出会いをありがとう!