約3時間の睡眠を取ったあと、ポトシの銀山見学ツアーに出かけた。

ポトシ銀山はCerro Rico(豊かな丘)と呼ばれている。

この町の人達はとても陽気で、バスに乗っていても外にいる現地の人達が手を振ってくる。ラパスの人達が持つ照れ屋な気質はここにはないようだ。

この銀山は鈴や鉛が取れることで有名で世界遺産にも登録されている。
ディズニーランドにあるビッグサンダーマウンテンや、白雪姫の小人達が働く鉱山のような場所を言えば想像しやすいだろうか。

作業服に着替えていざ鉱山へ。中は真っ暗で狭く、屈んで歩かなければすぐに頭をぶつけてしまう。おまけに鉛のような鈍い匂いで入り口に入ったとたん、安易な気持ちで過ごせる場所ではないと身が引き締まった。
ここはディズニーランドにようなアミューズメントパークではないのだ。

鉱山で作業をしている人達はいくつかのグループに所属して働いている。

全部で25の約5人からなるグループの内、3箇所を訪ねた。

鉱山で働く男性達はほとんどが独身だ。初めに訪れた場所で働く男性もそうだった。

彼は私たちが来ると、作業の手を止めて話を聞かせてくれた。

シエボと呼ばれる96%のアルコールとオレンジジュースを混ぜた飲み物をペットボトルの底を切った器に注いで歓迎してくれた。

鉱山という過酷な場所で働く人達は、コカの葉をほっぺがパンパンに膨らむまで噛んで貯め込み、酸素の薄さから生じる頭痛や体調不良をしのぎながら作業をしている。

お給料は出来高制で世界のマーケット状況を見ながら市場に売り込む。

時には月に1センターボほどしか稼ぎがないときもあるという。

 

通常長時間人がいられるような場所ではない所で、どのようなことを考えながら作業しているのかを訪ねた。

『石を叩く時は、女性に見立てて叩くんだよ。そうすればただ叩くより、丁寧に叩ける。お~い、出て来てくれ~ってね。』

以前、ある日本の大手鉄鋼会社は溶鉱炉を女性に見立て、そこから出て来る鉄を赤ん坊として大切に扱いながら仕事をしている話を聞いたことがある。

更には初めての溶鉱炉で出て来た鉄は初産として貴重に扱われるという。

日本から遥か遠く離れたボリビアの地で、同じような思考を持って作業に取り組んでいる人達がいることに驚いた。

彼の作業場を去る時、

『あなたがここで働いているということを決して忘れないから』

と伝えると、彼も

『ありがとう、君が来てくれたことを僕も忘れないよ』

と答えてくれた。

私たちが彼のいる作業場から離れてそっと後ろを振り返ると、息が詰まりそうなほど真っ暗な闇が再び彼に押し寄せていた。

今私がホテルのベッドの上でこうして文章を書いている間もきっと、彼は石と向き合っている。明日もあさってもあの空気の薄い孤独な鉱山の中で、明るく仲間達と働き続けるのだろう。

ERIKO