チチカカ湖をぐるっと周ること約1時間、人気の少ないサンパヤという村に着いた。ここでは特に観光名所と呼ばれるような所もなく、観光客も全く来ない、現地の人たちがひっそりと暮らしている村だ。

背の高い雑草が生い茂った教会へ入ると、おじいさんがカラフルな帽子を被って座っていた。

 

『どこからきたんだい?』

 

『日本から来ました。』

 

そう言うと、おじいさんは顔を縮ませて握手を求めた。日本というだけで親しみを持って接して貰えるのは、私たちの先祖がたくさんの苦労と努力をしてくれたお陰なのである。

この小さな挨拶に、大変な有り難みを感じた。

 

おじいさんはそのあとお家へ案内してくれた。扉はステンレス製の簡易なもので、家は土壁で出来た風土建築のようなものだった。

おじいさんは一人で住んでいるようだったが、すぐ近くに兄弟が住んでいると言っていた。その言葉は寂しくはないことを教えてくれているようだった。

 

 村に唯一ある、ミュージアムへ向かった。かやぶき屋根の建物の前へ着くと、扉はどこも閉まっていた。

 

 バスの方へ戻ろうとすると、ある家の庭が騒がしかった。覗いてみると、村人がたくさん集まっているようだった。中の様子を見させてくれるよう頼むと快く承諾してくれた。

 

 奥には家があり、女性達が料理を作っていた。屋根の上には解体した羊の皮が干してあり、銀色のボールの中にはいっぱいになった羊の内蔵が入っていた。

私は初めて見るものだったので少し衝撃的だったが、解体して食する人達はどんな気持ちで肉と向かい合うのだろうと想像した。

 

 突然大雨が降って来たので少し家の中で雨宿りさせてもらった。

子供達やお母さんは突然の分けのわからない外国人の訪問に恥ずかしがって手で顔を覆った。

 

通り雨が止んだと同時に男性達が管楽器と太鼓でマーチを演奏し始めた。

チチカカ湖が見下ろせる小さな村で賑やかな音楽がこだました。

 

またここへ来ることがあるだろうか?

私の人生の所在がどこにあろうとも、日々のふとした瞬間にサンパヤ村の人達の姿が瞼に浮かぶことを思うと、それだけで心は軽くなる。

ERIKO