4月にボリビアへ来ることを決めた一番の理由は、このセマナ・サンタ(聖週間)にコパカバーナの巡礼をすることだった。

そもそもどうしてこの巡礼祭を知ったのか、記憶が定かではないが、確か誰かのブログを見て、惹かれるものを感じたのだと思う。

当初は張り切って3日かけて約150kmの距離を歩くつもりでいたが、家族や周りから『危ないからやめなさい。』と言われ、すんなり車で行くことを選択した。

今回のコパカバーナの日程はSURTEKさんにアレンジして頂いた。

6日の朝6時、ドライバーさんとガイドの藤田さんとでコパカバーナへ向かう。

普段は2時間で着く距離がなんと6時間もかかった。道は1車線しかなく、聖地への道は大混雑していた。

道中、晴天の中輝くイリマニの山やアンデスの山々の連なりが見え、私たちを優しく向かえ入れてくれているようだった。

 

 コパカバーナとは、現地の先住民族のアイマラ語でqopa(コパトルコ石の青緑色、qahuana(カウワナ展望台を意味する。

その名の通りチチカカ湖の湖面はトルコ石のような碧々とした色を太陽の光が照り返し、益々光り輝いていた。


コパカバーナ教会へ着くと、ドライバーさんがマリア像を買いたいと言いだし、路店へ向かった。路上ではたくさんのミニチュアグッズが販売されていた。

自分たちの欲しい車や家、お金などの細工品を購入し、牧師さんから清めてもらうとそれらを手に入れることが出来るというもので、毎年1月のアラシタという祭りの時に主に販売されている。

私は記念に幸せコンプリートセットを購入した。

 歩きながら話をしていると、今日は藤田さんの誕生日だということが分かった。

ドライバーさんはそれを聞くと早足にマリア像の売っている店まで駆け寄った。

並んでいる店を片っ端から値段を聞いて回っている。

私たちはてっきり彼が自分のマリア像を探しているのだとばかり思っていたが、実は藤田さんの分を必死で探していた。


『今日は誕生日だから、マリア像を買ったほうがいい。これなんかどう?』


ガラスケースに入った黒髪のマリア様を勧める。


『私はいらないわ、ありがとう。』藤田さんは丁寧に断った。


私たちは彼のポケットに20ボリビアーノしか入ってないことを知り、彼が欲しそうにしている70ボリビアーノのガラスケースに入ったマリア様をプレゼントすることにした。

彼は少年に戻ったような目つきになり、教会のミサ中もずっとマリア様を大事そうに両手で包み込んでいた。

私は彼の姿を少し後ろから見ながら嬉しくなった。
随分久しぶりに純粋な大人を見た気がしたからだ。

あとで話を聞くと、彼は独身で90才くらいになる母親と一緒に暮らしていた。

セータの下のポケットから大事そうに母親の写真を取り出し見せてくれた。

一緒に写っていた彼は随分と若かった。

私たちがホテルへ戻ると彼は寝床である車の中へ戻って行った。


翌朝も彼は元気に挨拶してくれた。

残念なことに昨日のうちに何かの衝撃で、毛布にくるんで保管していたマリア様のガラスケースが割れていた。

彼は言葉も出ないほどガッカリしている様子だった。昨日から大事に扱う姿を思い起こすと、胸が痛んだ。きっとお母さんに見せてあげたかったのだろう。

皹の入ったガラスケースを毛布に包み直すと、車を走らせた。

田舎道を走っている最中、豚や羊に出くわす度、
『わぁなんてちっちゃいんだ~。』

などと興奮しながら楽しそうに運転していた。

そして私たちが楽しそうにしていることを、心から喜んでくれた。


たまたま今回のツアーのドライバーをしてくれただけであったが、年をとっても純粋でいる彼に心打たれるものがあった。純粋さは美しいものに導かれる。
    

ERIKO