先日、中南米にあるパナマのエル・バジェで、野生ランの保護活動をされているCOSPA代表の明智洸一郎さんにお会いした。

待ち合わせ場所に少し早く着いて待っていたが、誰も来る気配はなく、
電話がかかってきてようやく私が約束と違う出口で待っていることに気づき
走って集合場所へ向かった。

この日は前日からずっと雨が降り続いていたせいか、空気が湿ってるように感じた。
遅れてきた私を、明智さんを紹介してくれた日笠さんと明智さんは笑顔で迎えてくれた。


私たちは駅から歩いてすぐの『麦』という喫茶店に入った。
店内は古い木目調の内装で、音質の良いスピーカーからはモーツアルトのレクイエムがかかっていた。


明智さんは定年まで製薬会社で働き、仕事を辞めてからパナマでの活動を始められた。
きっかけはパナマ国からランを用いた職業訓練をして欲しいとの依頼が来ていることを知ったことだった。
そして2002年、単身パナマへ行き、本格的にランの保護活動を開始された。

『実際行ってみたらひどくってね、全然ダメだった。』
明智さんはゆっくり丁寧にパナマという国とそこでの活動のことをお話してくれた。


パナマのエル・バジェでは、野生のランを摘み、それを売ることで生計を立てている人たちが大勢いる。
明智さんはランを摘むことではなく、育てることで生活を支えることが出来るようにと支援を行っている。
去年はエル・バジェの山に登山道を作り、地元の人たちがガイドとして働けるように、山と人に新しい道を提供し続けている。

私は、『何が明智さんをそこまでさせるのですか?』と訊ねた。

『私のいたAPROVACAランセンターには世界各国からボランティアの方々が来て働いてくれています。
彼らやホステルに泊まる多くのバックパッカーたちと話していると、皆自分がやるべきだと思ったことに懸命に取り組んでいます。
そういう世界の若者に大変刺激を受けました。』と、大事なものを分けてくれるように相変わらず丁寧に答えてくれた。


定年退職をしたあと、一からスペイン語を学び、行ったこともない国へたった一人で行った明智さんはその時どんな気持ちだっただろう。
今でこそエル・バジェのランの保護センターは、その地区で訪れてみたい場所のナンバー3になっているが、始めた頃はきっと孤独だったに違いない。


しかし、今となっては明智さんがやってきた大変な活動は、これから何かに挑戦しようとしている人たちへの大きな勇気へと変わっている。
明智さんの経験そのものが、他の人の生きる力へとなっている。少なくとも私にとってはそうだ。

「失敗を恐れるな。やってみなければ何も生まれない。」

明智さんは謙虚にそう言いながら、最後まで優しい笑顔を絶やさなかった。                   
                   ERIKO