古来より水上をその活動の主軸とする軍事力

すなわち海軍を人類は運用してきた

しかし、海の上とは陸と異なり人間が居住する事はできない

だが、海上の支配は陸に住む人間に大きな影響を与えてきた

どのようにしてだろうか?

その方法を主に3つに分けて紹介する

 

1.通商路としての海

おそらく、海軍の原初の役割というのは通商路の保護と言われる

すなわち水上の強盗団である海賊対処だったのだろうということだ

現代も水上の輸送手段は陸よりもずっと重く多く運ぶ事ができる

かつて交通手段が徒歩や馬車に限られていた時代はなおさらだ

故に船による運送が行われるようになれば自然と海運が発達する

時代は下るが、古代世界でもたとえばローマは地中海を通じエジプトから大量の小麦を輸入していたというのは有名だ

穀物のように量がかさばり、しかも大量に必要なものを長距離運搬するというのは地上での輸送ではとても実現できない

ところが、治安状況によってはその物資を狙う海賊が出現する

海賊はそれはそれで面白い題材なのだが、ここでは扱わない

経済活動に極めて重要な物流を阻害されることは一大事

そこで陸地の根拠地を潰すだけでなく、この商船を護衛するための海上の兵力こそ原初の海軍だったのだろう

紀元前21世紀頃のことだろうと言われるから驚きだ

ところが、この海上戦力はひとたび戦争になれば逆に敵国の通称を破壊するためにも使えるわけだ

更に時代を下って20世紀ドイツは無制限潜水艦作戦

通商を担う商船を無制限に破壊することでイギリスの物流を根本的に破壊することを狙ったのが有名だろう

日本史上の大事件の黒船来航もこの文脈で捉えることができる

当時の江戸は世界でも稀に見る巨大都市であった

その食料は大部分が江戸湾に海上経路で運び込まれていたのだ

その江戸湾に外国の軍用艦船が居座っているのである

もしこの艦隊に敵意があれば、巨大都市江戸はあっという間に食糧危機に陥ってしまうことに違いない

しかも当時の幕府には、仮に敵対すれば、排除の手段もないのだ

そうであるからこそ、黒船来航はとてつもない大事件だったわけ

時と場合によっては海軍とは湾口を支配するだけで国家を揺るがすことができる力を持っているのだ

 

2.進軍経路としての海

前述の通り海は陸とは比べ物にならないほど大規模輸送ができる

故に軍事力という意味では陸軍を送ることもできるわけだ

進軍経路として海というのは陸よりずっと有利な特徴がある

それは補給物資もまた大量に運ぶことができるのである

古来より拠点から陸軍が離れられる距離は短かった

なぜならば、離れるごとに大量の兵士を養う食料などを送り届けるための負担が指数関数的に増大していくからだ

故に「遠征」などというのは巨大な一大事業とされるのである

ところが、海を使った進撃路ならその補給には船が使える

そのため同じ兵力をより低い負担で移動させることができるのだ

単に移動の有利だけでなく、移動後の維持にも益が大きい

更には進撃だけでなく海上の撤退、あるいは海上の迂回などなど海を支配すれば陸軍だけではできない柔軟な動きができる

無論、そのような海上の移動を敵が黙ってみているはずがない

故に陸軍の海の進撃を阻止するため海軍同士の戦いが発生する

このような戦闘の例を上げればチェサピーク湾の戦いがある

アメリカ独立戦争においてイギリスは強大な海軍を用い、たとえばボストン撤退など陸軍を輸送することで戦闘を助けてきた

しかしコーンウォリス将軍率いるヨークタウンで孤立したイギリス軍は撤退することができなかった

この時点のイギリス軍はもはや海から撤退するしか手段がなかったが、それに必要不可欠なイギリスの海上支配をフランス海軍がチェサピーク湾の戦いで一時的に無力化したからだ

このために増援を受けることも撤退することもできず、ついに英軍は包囲戦の末降伏することとなりアメリカ独立を決定づけた

海上の支配権の有無により陸上の戦いをも左右するわけだ

そして20世紀に入ると火砲などの進歩により船舶による陸軍上陸の直接支援が行われるようになってくる

また上陸戦のための専用艦艇なども開発されるようになった

所謂Dデイ、米英軍による欧州上陸において上陸舟艇や艦艇の艦砲射撃など軍の上陸に海軍艦艇が直接支援した

近現代ではこのような海を通じた陸軍の投射を水陸両用作戦として理論化されている

 

3.海軍艦艇による陸上の直接打撃

かつて艦艇というのは陸の目標を直接破壊することは困難だった

しかし、火砲などの進化によって陸上を攻撃できるようにもなる

火砲も視界内の目標しか砲撃できない時代でも

沿海部の目標は十分攻撃可能だった

たとえば湾口や港町・沿岸都市を砲撃するなどである

しかし、この役割は前者2つに比べれば限定的であった

ところが、航空機の時代に入るとこの能力は飛躍的に増大する

なぜならば、強大な航空機を搭載した空母は遠く離れた沖合から更に内陸の陸地を直接打撃できてしまえるのだ

しかも艦砲の目視外などよりずっと正確な打撃が可能なのである

故に空母とは世界中の殆どの場所に強大な戦力を運搬できるプラットフォームとしてそれ極めて強大な力を持つ

故に現代で先進国の軍事介入でまず表舞台に出てくるのは空母になってくるわけだ

同じくミサイルなど艦艇に搭載し陸上を打撃できる兵器も登場した

その極端な形は戦略ミサイル原子力潜水艦である

これは核ミサイルを装備し、200発近い核弾頭を全世界へ発射できる各戦力の切り札である

これは第二撃能力の保持のための装備だ

第二撃能力とは、敵の奇襲核攻撃で地上が全滅したとしても、水中に残された潜水艦が核報復を行い敵国を破滅させるのである

この第二撃能力を双方が保持することによる共倒れの危険による核戦争回避が相互確証破壊(MAD)なのだ

それほど極端な形ではなくとも

トマホークのような長距離精密誘導兵器の登場は空母以外の戦闘艦艇にも限定的に空母のような内陸への打撃能力を付与した

先月のシリアへのアメリカの軍事介入も、巡航ミサイルによるものであったことは記憶に新しい

このような海軍による地上への直接打撃は、陸軍と異なり地上を占領するという形を取らず単に破壊するのみである

したがって、全面戦争ではなく限定的介入という形式をとりやすい