NASA激怒「おむつ着用が真実だ」 オスカー候補「ゼロ・グラビティ」 | 芸能&エンタメ☆トレンドNews

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 さて、今回の本コラムはハリウッド映画のお話です。



 先週の18日、MOVIX京都(京都市中京区)で話題のハリウッド作品「ゼロ・グラビティ」(アルフォンソ・キュアロン監督)を観ました。



 16日に各部門の候補が発表された今年度のアカデミー賞(第86回)でも「アメリカン・ハッスル」(デヴィッド・O・ラッセル監督)と同様、作品賞、監督賞など最多10部門で候補にあがるなど、話題の1作とあって早めに見ておこうと思ったのです。3Dは吹き替えだったので、普通の字幕版にしました。



 いやはや。びっくりしました。そして見終わった後、頭の中は疑問符だらけになりました。そして、これらの疑問に迫ることが、昨今の日本のエンターテインメントについて日々、感じていたモヤモヤの解消にも通じることに気付きました。というわけで今回はこの映画に関する疑問や謎について論じてみたいと思います。



 ■アポロ月着陸陰謀論もOKしたNASAが「協力拒否」した背景



 物語はネタバレもへったくれもないほどシンプルです。舞台は地上600キロメートル上空の宇宙空間。米航空宇宙局(NASA)のスペースシャトルの女性医療技師ライアン(サンドラ・ブロック)と宇宙飛行士のコワルスキー(ジョージ・クルーニー)は、シャトルの外に出て、同じく地上600キロメートル上空の軌道上を周回するハッブル宇宙望遠鏡の点検補修作業に従事します。



 ところがそんな船外活動中の2人に向かって大量の宇宙ゴミが飛んできます。ロシアが自国の人工衛星を破壊し、その膨大な破片が宇宙ゴミと化したのです。



 2人に襲いかかる宇宙ごみはスペースシャトルにも衝突してシャトルは大破損。地上約400キロメートル上空に建設された国際宇宙ステーション(ISS)まで大きな損傷を受け、衝撃で2人は漆黒(しっこく)の宇宙空間に投げ出されます…。



 確かに映像は凄いです。本当に無重力の宇宙空間で撮影したかのようだし、物理的にあり得ないカメラアングルも多々登場します。



 ちなみに米での公開日である昨年10月4日付米NBCニュース(電子版)などによると、無重力下での俳優たちの演技は、水中で撮影した彼らの遊泳中の動きを参考にし、12本の特殊なワイヤで吊した俳優たちを人形師が操作。その模様を特殊なロボットカメラで撮影し、CG(コンピューターグラフィックス)技術でワイヤの線を消すなど数々の加工を施しました。



 同じ宇宙ものの米映画「アポロ13」(95年、ロン・ハワード監督)では、航空機による「パラボリック・フライト(放物線飛行)」で機内に生み出される約30秒間の低重力状態を撮影に利用しましたが、本作では無重力の場面が長時間にわたるうえ、この方法では吐き気をもよおすなど人体に大きな負担がかかるため、サンドラ・ブロックの生死に関わる問題が発生する可能性があったといいます。



 そして、内側が4096個のLED電球で埋め尽くされた高さ6メートル、幅3メートルの箱「ライトボックス」という新兵器が登場しました。箱の内部のLED電球はあらゆる色や光の強弱を表現でき、これによって宇宙空間や恒星の光の微妙な変化などをリアルに再現できるようになりました。



 俳優はこの箱の中に吊され、彼らをロボットカメラで撮影したのです。サンドラ・ブロックがぐるぐる回転しながら宇宙の彼方に放り出される場面は、この新兵器があったからこそ撮影できたといいます。



 さらに昨年10月8日付米紙ロサンゼルス・タイムズ(電子版)によると、この作品のプロダクション・デザイナー、アンディ・ニコルソン氏は米ネットオークションサイト、eBay(イーベイ)を利用して、NASAが過去に公式保存していた宇宙関連の写真やお払い箱になった米露の宇宙探査関連の機器などを入手し、ハッブル宇宙望遠鏡やISSの外観などを忠実に再現しました。



 またサンドラ・ブロックは撮影前、2度のスペースシャトル搭乗とISS滞在で計4330時間を宇宙で過ごしたNASAの有名な女性宇宙飛行士、キャスリン・コールマンさん(53)から貴重な体験談を聞き、同じくNASAの宇宙飛行士アンディ・トーマス氏(62)もあくまで一般市民の立場で製作側に助言などを与えました。



 この作品のプロデューサー、デヴィッド・ハイマン氏は前述のロサンゼルス・タイムズ紙に「迫真性を得ることは非常に重要だった。われわれは(観客に)宇宙にいるような感覚を与えたかったし、視覚的にも感覚的にも非常にリアルなものを追究するのが監督のアプローチの基本だった」と述懐。



 しかし、その一方「とはいえ、この作品はフィクションで、(作られた)物語であり、ドキュメンタリーではない。100%の現実(Real)ではなく、真実(Truthful)であることが重要だった」と訴えました。



 つまり“リアリズムにのっとり、真実の断片を積み上げて作ったフィクションだ”ということを言いたいようですが、何だか歯切れの悪さを感じます。



 しかし、こんなまどろっこしい説明、というか言葉遊びになっているのには確固たる理由があるのです。なぜならこの作品、真実の積み上げどころか、事実誤認だらけなのです。



 昨年9月30日付米紙ニューヨーク・タイムズや10月1日付米誌タイム(いずれも電子版)など複数の欧米メディアが指摘していますが、この作品、まずは物語の大前提が崩壊しているというのです。



 これらの欧米メディアは、キャスリン・コールマンさんら当の宇宙飛行士や宇宙研究者の声を引用し、ロシアの人工衛星とハッブル宇宙望遠鏡、国際宇宙ステーション(ISS)の軌道はそれぞれが大きく異なっているため、たとえロシアの人工衛星が爆発事故を起こしたとしても、破片の直撃は考えられず、本作で見られるような連鎖的宇宙大惨事などあり得ないと明言。「脚本に大きな穴がある」(前述のニューヨーク・タイムズ紙)と批判しています。



 コールマンさんも前述のロサンゼルス・タイムズ紙に宇宙ゴミの問題に関し「何の心配もない」と断言しています。



 さらに「宇宙科学者たちからの主たる批判は、ISSとハッブル宇宙望遠鏡が比較的接近していること」(前述のロサンゼルス・タイムズ紙電子版)で、遭難した2人がISSをめざす展開について前述のニューヨーク・タイムズ紙は「海に投げ出された中米カリブ海の海賊が、泳いで英ロンドンをめざすような行為だ」と、その矛盾ぶりを皮肉っぽく評しています。



 こういうことを書くと「そもそもハリウッド映画の時代考証なんか昔からいいかげんだし、SF映画なんだから、いちいち揚げ足とるな」との声も聞こえてきそうですが、明治初頭の日本が舞台の米映画「ラストサムライ」(03年、エドワード・ズウィック監督)で、なぜか日本にヤシの木みたいな熱帯植物が生えていたりしたのはご愛敬としても、この作品の場合、物語は2人の脱出劇しかないわけですから、その根幹部分の事実関係が崩れていたら大問題です。



 事実、このご都合主義の連鎖的宇宙大災害をNASAは許せなかったようです。前述のロサンゼルス・タイムズ紙は、この作品の製作に関わった匿名の人物の声として、NASAがこの作品の製作側に対し、公式な立場での助言を拒否したと伝えました。



 NASAが荒唐無稽のSF映画をすべて嫌悪しているわけではありません。これまでから自身の活動のPRの一環として数多くの映画やテレビ番組の制作に協力してきました。



 実際、アポロ計画陰謀論が絡む米SF映画「トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン」(11年、マイケル・ベイ監督)では製作に全面協力。フロリダ州のケネディ宇宙センターで撮影が行われ、スペースシャトル関係の仕事に携わる職員が多数、エキストラ出演しました。



 さらに前述のタイム誌は、これ以外の矛盾点として(1)ジョージ・クルーニーが着用している有人機動ユニット(MMU)は燃料が非常に少なく、映画のように気軽にあちこち飛び回れない(2)宇宙服を脱いだサンドラ・ブロックはクロックトップにボクサーブリーフ姿だが、実際はおむつ着用である(3)宇宙服の加圧手袋を着用して指などを動かすには大変な力が必要で、2人がシャトルやISSの外部のレールなどを片手でつかむというシルク・ドゥ・ソレイユ級の芸当は到底不可能である(4)サンドラ・ブロックが消火器の噴射力を利用して目的地に向かおうとするが、無理-などと指摘しています。



 このように、映画人(つまり内輪の人々)が自画自賛するのは当たり前ですが、宇宙飛行士や宇宙科学者から言わせると、とんだペテンというわけです。いかにもありそうな嘘の積み重ねがエンタメの極意なのは重々承知してはいますが、この作品は映像がかつてないほど超リアルなため、タチが悪いと思います。



 しかし、冒頭の記者の驚きや疑問は別のところにありました。これほど頭を使う必要がない映画体験は初めてであり、この作品と、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)の「ターミネーター2:3-D」のような劇場体感型アトラクション(遊戯施設)のどこが違うのかという疑問が渦巻いたのです。



 例えば、米3D映画「アバター」(09年、ジェームズ・キャメロン監督)には壮大な物語の波が多くありましたが、この作品は、一般的なパニック映画の佳境の部分だけを切り取り、引き延ばしただけ。映画館に入り、椅子に座り、アホになったまま1時間半を過ごせばそれでOK。吹き替えの3D版を観ていたらさすがに途中退席していましたよ。



 この作品は、人間の脳みその中でも、論理的思考や創造性を司(つかさど)る部分ではなく、食欲や性欲といった本能的行動や「痛い」「気持ちいい」「怖い」といった動物的感覚を司る部分の直撃を狙って作られているという気がします。



 そして、この作品は、食い物や猫(動物)、難病に頼らないと間がもたない昨今の日本のヘタレエンタメにも共通していると思います。しかし、本作やこれらのヘタレエンタメが大変な商業的成功を収めているのも事実です。



 「人気あんねん。売れてんねん。儲かってんねん。何か文句あるんか。負け惜しみ言うな」との作り手側からの開き直りの声もよく聞きます。確かにそれも正論でしょう。しかし、ひねくれ者の記者には「お前らの脳みそレベルに合わせて作っとんねん」という作り手側のもうひつの傲慢な声がはっきり聞こえてくるのです…。



 本作を映画館でご覧になられたみなさんは、どうお感じになられたでしょうか…。(岡田敏一)



 【プロフィル】岡田敏一(おかだ・としかず) 1988年入社。社会部、経済部、京都総局、ロサンゼルス支局長、東京文化部などを経て現在、編集企画室SANKEI EXPRESS(サンケイエクスプレス)担当。ロック音楽とハリウッド映画の専門家。京都市在住。



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