今から、数年前の大学受験の出来事が思い出される。
Y君は浪人生で前年のセンター試験で、書き方を間違えをして、0点を取ってしまい浪人した。
彼は、受験に失敗するほどの成績ではなかったので、かなり落ち込み、かなり傷ついてしまったようだ。
そして、1浪のセンター試験を目前としたときに、緊張し始め、ビビリ始めたように見受けられた。
だから、私は必死に励まし、士気を高めるように努力したが、なかなか上がらなかった。
私の力ではどうしようもなかったので姉に、どういう言葉がけをしたらいいのか聞いた。姉は翌日、受験生全員に読んでもらうようにと、士気を高めるためのメッセージ文を送ってくれた。
それを読んだ一人の浪人生は涙ぐんでいた。
Y君も凛として受験勉強に取り組んでいたように思う。
しかし、センター試験の直後、お母さんから、できなかったと言う電話をもらった。
どう励ましても、お母さんまで落ち込んで、まるで、試験に落ちたかのように落胆されていた。
もう、一般入試まで時間がない。
私もどうやって、この落ち込みから救っていいのか分らなくなったので、また姉に相談した。翌日姉からセンターに失敗した人も、受験を前にして緊張している人にも、また他の受験生にも、受験に勝利する心を作るためのメッセージが届けられた。それをたたき台にして、私と姉で練りに練って作り上げた。それは、人生に勝利する心を創る一助にもなるものだと思った。
「これで勝てる!」私達はそう思った。
そのメッセージの最後のフレーズを紹介しよう。
「昨日の自分は今日の自分ではありません。未来の自分も昨日の自分ではありません。未来の自分は今から自分で創るのです。幸福な未来は創れるのです。」
Y君の立ち直りはすごかった。
それから、河合塾にも通っていたのだが、その自習室で、猛勉強が始まった。私は、Y君のことが心配でたびたび電話を入れるのだが、いつも塾で自習してるとのことだった。この健気な姿に私はどうしても受からせてあげたいと強く思った。
そして、受験。
そして、発表。
お母さんから電話が入った。涙交じりの声のような気がした。
「先生、Yが受かりました。第一志望の早稲田の国際教養に受かりました。そのほかの学部も受かりました。ありがとうございます。」
私はすぐに姉に電話をした。
それから、お母さんとY君が、御礼に来てくれた。感激冷めやらぬ状態だったようだ。私は当然のことをしただけだったが、私も感涙した。
入学式の日に、お母さんは彼のために作ったお赤飯を私のところにも持ってきてくださり「先生のお陰だ」と何度も言ってくれた。
私は、Y君が、私を信じてついてきてくれたことに感謝するとともに、私達の作ったメッセージを信じて、実践してくれたことに対して、とても感謝した。そして、それはY君だけではなかった。
こんな素晴らしい子達に恵まれて嬉しかった。
私の生徒達は本当に素晴らしい存在なんだ!と威張りたいような気持ちにもなった。
「合格」は生徒と私と一丸となって勝ち取った気がした。
しかし、合格と言うのは別れを意味している。
かけがえのない生徒達と別れるのは辛かった。
だから彼らに、これからの人生、大いに羽ばたいてほしいという願いを込めて、「贈る言葉」というメッセージを、卒塾してから、ひとりひとりに郵送した。
その手紙の結びにこんなことをつづった。私の願いと祈りを込めて。
「愛しい生徒たちよ、幸せに、はばたけ!」