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ベッドの上でタバコをふかしている彼にとっては、私が喘息だとか、煙が嫌だとかそういうことは全く気にならないで、むしろ自分が吸いたいという欲望に忠実でいられることに誇りを持っているようだった。アメスピのなんとも形容しがたい匂いだけはこの数ヶ月でもう、とうに覚えて、週に一度お金欲しさに来るホテルとこの甘い時間に私は生かされている。

現在の時刻深夜一時五二分。

昔、両親はよく私にこういっていた、夜遅くなってから出かけるのは危ないと。でも今思えば危ないということは襲われるとか殺されるとかいうことで、その時の私にとっては怖かったけれど今の私からすれば何しろセックスも死ぬことすらも近くて、恐れることなど何一つなかった。むしろ夜の街のネオンだとか、繁華街の喧騒だとか一人一人が眠らずに生きているという事実だけが私に安心をもたらしてくれる。
今、私が生きていると実感できるのは沈んだベッドと私の手を握る彼がいることだ。

「起きたの?」少しだけ掠れた声を囁くようにかけてくる、いい声とは言い難いがよくある声。
「さっきから寝てないってば」
「ああそう」
彼はもう一度タバコを吸ってそれを吐き出す、無意味なそれ。
暗闇の中の小さな灯火は点いては消えまた点いては消える。ため息なのか、煙を吐き出す行為なのかよくわからない。

不意にぎゅっと握られた手のひらが急に熱を帯びる、冷え切った体がいち早く呼吸をしようと悴んだ指先を急いでそれに絡ませる。
「体、冷えてるよ」
分かりきったことだったけれど、彼の言葉で私の体はきゅっと縮こまった、寒かった。外は氷点下で部屋の中には暖房もついていない、おんぼろのラブホテルの一室、いつまでもたっても体は暖まらない。

彼がタバコを捨てて、仰向けに寝ている私の右手を握ったままにこっちを見つめる。
暗い中なのにはっきりとその瞳だけ、わかっていた。のそっと体を起こして、真っ直ぐに居直る。真っ黒でボサボサな黒髪も、外国人みたいに高い鼻も、骨ばった首筋も全部が哀しそうで寂しく見えた。彼の手が私の両の手を捕まえて、瞳を覗かれる。きっと彼は私の何かを欲しがっているのに私はそれを持っていない。重なる唇はあまりにも暑すぎて、氷が溶けていく。

彼が求めるのは体ではなくて本当は心で、私が求めているのは心ではなくて体なんじゃないかと思う。
少女漫画に洗脳された終わりかけの思春期の、曇りないような磨硝子の未来をも一緒に溶かしていくような夜。