第十話「えー!?ついに最後の戦いになっちゃったー」


「本物のアイドル力を見せてやるー」
サクラコからパフォーマンスが始まった。
アイドルロックに合わせてキレのあるダンスで魅せる。
「やっぱりすごい」
ユメノは相手のアイドル力を素直に感心した。
以前までの彼女だったら怖気づいてしまう。
だが、今のユメノの目は闘志に滾っている。
「よし、わたしも負けないぞ」
サクラコの曲が終わり、次はユメノの番だ。
今までの努力、営業回り……思い出が頭をよぎる。
その思い出があったからこそ、今のユメノは全力でステージに立てるのだ。
「いっくよ~」
明るくポップな曲調に合わせて目一杯に自分を表現する。
二人のアイドル力にウメコとキュアラブソングも引き込まれている。
「すっごくいいじゃんよ」
「ユメノちゃん輝いてるよ」
そう、ユメノの笑顔が場を明るく楽しくしてゆく。
その影響力はサクラコにも伝わってきていた。
「何なのよ、この空気は。こんなの感じさせられたら認めるしかないじゃない」
サクラコの肩にウメコがそっと手を置いた。
「いいもんだろ?あいつとアイドルするのは楽しいじゃんよ」
「お姉ちゃん……」
満足そうな姉の顔を見たらもう認めるしかなかった。
しかし、サクラコにも手放したくない夢がある。
その時サクラコは閃いた。
「じゃあ、私もそっちのグループに入る!そうすればお姉ちゃんと一緒だー」
予期せぬ言葉にウメコが驚く。
パフォーマンスを終えたユメノが叫ぶ。
「SODは追加メンバー募集中だよ」
「うん。私入るー」
「やろう。一緒に」
即答したサクラコの手を握るユメノ。
さらにキュアラブソングの手も握った。
「え?」
「アイカちゃんもだよ!」
ウメコ姉妹が驚きの悲鳴をあげる。
「えー!?正体ってアイカなのー!?」
ユメノの提案にたじろぐアイカ。
「でも私……もう芸能界には戻れないし」
「そんなことない!何があったって諦めない。それがわたしが思うアイドルの姿だよ」
「大好きなアイカちゃんと一緒にやりたいんだ」
その言葉が愛情なのか友情なのかは分からない。
けれども自分をそこまで大切に思ってくれていることがアイカにはたまらなく嬉しかった。
だからこそアイカは握られた手を握り返した。
「うん。私も」
はずした仮面の下から、笑顔と嬉し涙だらけのアイカの顔が出てきた。
その目には迷いなどない。

新たにサクラコを加え、アイカも復帰した新生SODの誕生。


そんな晴れやかな瞬間を快く思わない者が叫びをあげた。


「何がアイドルだー!」
空になった注射器を投げ捨ててミヤネヤが吼える。
「アイドルもプリキュアも邪魔者は全て倒す」
ミヤネヤから不気味なオーラがほとばしる。
そのオーラの正体は大量のナノマシンとナノマテリアルである。
「フフフ。文字通り命をかけたこの力でな!」
なんとミヤネヤが変身を始めた。
フリルなどは控えめになっているが、変身した姿はまぎれもなくプリキュアだ。
「えー?そんなのアリ~?」
「うわあ、女装にしか見えないじゃんよ」
「あはは、変なのー」
否定的なリアクションに迎えられてしまう。
しかし気にすることも無く強力な攻撃を仕掛けてきた。
「なりふり構ってられんのだよ!くたばれ!」
「きゃー」
短期決戦だと言わんばかりに激しい攻撃の嵐を吹かせる。
実際に注射の効果時間は短く、それ故にミヤネヤは焦っていた。
「早く死んでしまえっ」
四対一のプリキュア同士の対決。
結果は既に見えている。
出だしは強襲により攻勢に見えたが、数に押されて反撃をくらい始めてしまっている。
「ぐぅ。私は守るのだ――」
劣勢のピンチになってしまったその時。
携帯していた通信機から連絡が入った。
「何っ!?村に巨大兵器が現れただと」
ミヤネヤはプリキュアたちから距離をとった。
「貴様らとの決着よりも優先することが起きた」
「なになにー。負けそうだから逃げる言い訳ー」
意地悪くサクラコがからかう。
「何とでも言え。村が襲われているんだ。守らねばならない」
「村が襲われているの?大変、助けなきゃ」
「むっ?貴様らも助けに行くつもりか」
「当然じゃんよ。だってアタシらプリキュアだし」
「困ってる人がいたら助けたくなっちゃうんだよね、ユメノちゃん」
「そうだよ!わたしたちも助けに行くよ」
ミヤネヤはプリキュアたちの申し出に驚く。
「貴様たち純粋すぎるだろ」
「フフフ、そういうことか。私はいつの間にかこの純粋さに嫉妬していたのかもしれんな」
「よし。私の案内についてきてくれ」
背中越しにミヤネヤは言う。
「プリキュアたちよ。ありがとう」

村の付近に着いた一行。
遠くからでも見える巨大な人型兵器が猛威をふるっていた。
「何だあれは」
「でっかーい」
全身に纏った武装が火を吹く度に相手の軍勢が倒されてゆく。
「何でかわいらしいドレス姿してるんだろ」
「プリキュアだからトロ」
ユメノの疑問に答えたのはいつの間にか背後にいた謎の小動物である。
「久しぶりじゃんよ」
村から悲鳴が聞こえる。
いてもたってもられなくなったミヤネヤが飛び出してゆく。
「何もかも時間がない。私は行くぞ」
「待つトロ。迂闊に飛び込んでゆけば返り討ちに遭うだけトロ」
「時間が無いと言っている!」
ミヤネヤは制止を振り切ってあっという間に巨大兵器へと突貫してゆく。
「うおー!帰れー!」
砲火の嵐をかいくぐって放った全力の攻撃は魔法のようにパッと威力が相殺されてしまった。
「私のナノマテリアルが消えた?」
驚くミヤネヤへ砲火が降り注ぐ。
「ぐはぁー」
重傷を負ってしまった。
だが、彼は諦めていない。
「バリアのような物か?それならばぶち壊せるだけのエネルギーを与えるだけだ」
注射の効果が切れる時間まであと一分。
「どうせ死ぬんだ。この手を使わない手はない」
体内ナノマシンの活動を臨界レベルまで高める。
死ぬまであと十秒。
「プリキュアたちよ――」
「村を頼むー!」
限界以上に高めたエネルギーが一気に暴発した。
ミヤネヤの体が巨大な火球となり、爆散してしまった。
「ミヤネヤー!」
村を守るため命をかけた男がいた。
時には道に迷い、いつの間にか悪になっていた。
だが最後の瞬間、彼は元の道に戻れた。
その姿は無骨ながらもプリキュアであった。


次回最終回予告「じゃーん!笑顔が満ちる世界に」