「先生、手術を希望します。よろしくお願いします」
「わかりました。わざわざ遠い所から腹腔鏡手術のために来てくれたんですからね。

僕も最善を尽くさせていただきます」

わざわざ遠い所から来てくれた。
何気ない一言かもしれないけど、こういう言葉が信頼関係を築くきっかけになる。
会って間もないけど、この先生なんかいいなぁ。

「子宮は温存をご希望されますか? 出産のご希望は?」

好きな人との赤ちゃんが欲しいという気持ちはあった。
おじいちゃんおばあちゃんがお父さんとお母さんを産んでくれて。
お父さんとお母さんが私を産んで育ててくれた。
両親たちは生きていくうえで、大事なことをたくさん教えてくれた。

 

いつも笑顔でいること。

人との関わりを大切にすること。

最後まで諦めないこと。

 

私は両親ほど実行できてはいないけど、その精神は受けついでいると思う。
そのことに私はとても感謝しているし、親族が集まった時の和やかな雰囲気に幸せを感じた。
つらいこともあるけど、命をつなぐっていいなと思った。

『emitちゃん、結婚は?』
『まだです~。出会いがなくって~』


『そろそろ孫の顔が見たいなぁ』
『ごめんね、お父さん。期待しないで待ってね~』

いつか私も家庭を持ち、第二の人生を歩む事になるのかなぁ。
そう思い続けてはや40年。

そうだなぁ。
もう10年くらい若かったら温存も考えたけど……。

もちろん、全部今からでも遅くはない。
40代でも50代でも元気な子供を産んで育てている人がたくさんいるのも知っている。

もしかしたら。

もしかしたら、これからそういう機会に恵まれるかもしれないけど。

私のパートナーは「emitちゃんの体を一番に考えてほしい」と言ってくれた。

そういう事もあって、一体自分はどうしたらいいのか決めかねていた。

「今子供を産む予定はないですし、今後も絶対ないとは言い切れませんが、年齢のこともあるので半分あきらめています。先生はどうするのが一番いいと思いますか?」

「今後も出産をご希望されないのであれば、子宮は全摘出が望ましいです。

emitさんの体を第一に考え、再発の危険性をなくすためにも。
お子さんを産みたいという事であれば、出来る限り部分切除して子宮を温存をすることも可能です。ただ部分切除ですと、どうしても取り切るのが難しい所もあって手術時間が長くなるので、その分出血も多く体に負担がかかります。
卵巣については悪い所をとって片方温存し、もう片方は取ってしまった方がよいかと思います」

やはり片方は残すんだ。

ネットで読み漁った卵巣嚢腫の体験記には、この方法がとられることが多かった。
なんでも、両方とってしまったら女性ホルモンの分泌が行われなくなるので、更年期障害と同じような問題が起こるのだとか。

「……では、子宮は全摘出、卵巣は片方温存でお願いします」
「わかりました。とってしまったら戻すわけにはいきませんので、もう少しよく考えてからでもいいですからね」

おそらく私は、今の自分にとって最高の選択をした。
最終的に自分で決めたのだから、後悔はしないようにしよう。
これであとは手術のために動くのみ。
やることが決まれば、それに向けて準備するのみ。

それなのに。

「それとですね」

まだ何かあるのかと心がざわついた。

「手術は2回になるかもしれません」
「えっ、2回ですか?」

心は固めたはずなのに。
想定外の回答が返ってきて、一気に不安になる。

「はい。子宮を摘出する際に出血が多かったり、emitさんの体が持ちこたえられないと判断した場合は一旦閉じて、数か月後今度は視界が開けた状態で卵巣嚢腫の手術をしたほうがよいと思います」

「でもそんなに何回も体にメスを入れたら、余計体に負担かからないでしょうか…」
先生は首を横に振った。
「いいえ、再手術の方がリスクは少ないです」

2回。

「わかりました……。お願いします……」
「はい。手術は早くて年明けになるでしょう。準備のために本日から女性ホルモンの分泌を抑え子宮筋腫を小さくするリュープリンを注射します。この薬は骨を脆くする副作用があるので、骨密度の測定も……」

2回かぁ……。

手術が2回になるかもしれない。

そう聞いてから、私は完全に落ち込んでしまった。


一大決心をしたのに。
1回でさっさと終わらせられると思ってたのに。
やっぱり子宮筋腫と卵巣嚢腫が併発してしまっているからなんだろう。

先生の声が遠くに聞こえる。
方向性が決まったからなのか、淡々と伝えることだけは伝えているといった感じで、少し早口でしゃべっていた。

それがとても冷たく感じた。