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 脳の働きをつかさどっている細胞で最も知られているのは神経細胞(シナプス)だが、最近の研究で「グリア細胞」という脳細胞が注目されている。細胞内のカルシウム濃度の測定技術やニ光子レーザー顕微鏡など脳を観察する技術が進み、その働きが可視化され、「シナプス可塑性」がin vitro及びin Vivoでの研究成果で裏付けられてきたからだ。

 

 グリア細胞の一つ、アストロサイトはニューロンや血管を取り囲むように脳全体に広がっていて、ニューロンのネットワークを固定することとニューロンへの栄養補給が主な働き。アストロサイト同士や他のグリア細胞とコミュニケーションを取り、突起の一部をシナプスに伸ばし、神経活動が活発に行えるよう必要な神経伝達物質を放出、また不要な神経伝達物質を除去し神経回路機能を調節する。オリゴデンドロサイトは、ニューロンの軸索に何重にも巻く髄鞘(ミエリン鞘)を形成、脳内の情報伝達は軸索を通る電気信号で行われるため髄鞘は脂質に富む構造から絶縁体として働き、活動電位が途中で減衰することなく絶縁した部分を飛び越えて伝わるため伝達速度を速める効果がある。(その速度は、髄鞘がない場合秒速1〜2m、人がゆっくり歩く程度。髄鞘を形成することで秒速100m(時速360km)ぐらいは新幹線並の速さである。)ミクログリアは中枢神経系において免疫機能を担当し、突起で脳内をスキャンしシナプスへ栄養因子を補給、また細菌や腫瘍細胞を死滅させるような分子を出してニューロンを修復するが、回復できない状況だと判断すると脳機能に弊害をもたらすためニューロンを食べて除去、ミクログリアは脳内の恒常性を保つ働きをしている。

 

 さて、最近の研究で癌細胞が分泌するエクソソームと呼ばれる顆粒が、癌の転移において重要な役割を果たすことが明らかになってきた。エクソソームの構造は、リン脂質二重膜からなる100ナノメートル程度の小胞で、放出元細胞のタンパク質や核酸(mRNA、miRNA)などが含まれるため、エクソソームを調べることで放出元細胞の情報が得られると考えられている。免疫系では、細胞から放出されたエクソソームが抗原提示小胞として機能し、抗腫瘍免疫における応答や炎症を抑制する免疫寛容性などを誘導する。神経系では、ミエリン鞘の形成、神経突起の伸展、神経細胞の生存維持に関わっていると考えられている。神経変性疾患においては、プリオンやβアミロイド・ペプチドなどの病原性タンパク質が、他の細胞へ伝播するときにエクソソームを利用していることが最近の研究で報告されている。

 

 また脳の修理にエクソソームが関与…との研究も。そこでは刺激豊かな環境が細胞レベルで利点がもたらされ、脳細胞のミエリン鞘が修復されるらしいとのこと。刺激豊かな環境下で生じたエクソソームは、miRNAを運んでおり、このmiRNAが脳内の未成熟な細胞のミエリンを作り出すオリゴデンドロサイトというグリア細胞の分化を促すらしいというのだ。それだけではない、オリゴデンドロサイト由来のエクソソームは、神経伝達物質であるグルタミン酸を刺激すると生成されるミクログリアを介してミエリン破片のクリアランスに関与するらしい。ミエリンを形成しているオリゴデンドロサイトが軸索の電気活動を検知し細胞内カルシウムレベルを上昇させていること、細胞体の脱分極によってミエリン形成している軸索の伝達速度をさらに上昇させていることについてもエクソソームの役割が示唆。これまでの研究では、1つの神経細胞に2つのシグナルが同調して(30msec以内)入力されると、シナプスの可塑的変化が誘導されやすくなることも知られており、このオリゴデンドロサイトがミエリン形成している1つの軸索の電気活動によって、もう1つのオリゴデンドロサイトがミエリン形成している他の軸索の伝導速度に影響しているかもしれないとのこと。

 

 脳の健康は、人間らしさの本質である「心」の基盤である。大脳には数百億の神経細胞がありそれぞれが平均数万ものシナプスを有し、互いに維持し、整備された層構造を有する巨大な神経回路を形成、この秩序だった神経回路は効率的に電気信号を伝達し、認知、運動、感情、記憶、そして学習といった高度な情報伝達処理を可能にしている。「細胞の情報を伝える=病気を転移させる」というエクソソームの負の特性は、予防や早期治療、薬剤の細胞への直接投与といった先進治療を切り拓く。このエクソソームが複数の接着タンパク質を含む細胞膜から構成されているため細胞間コミュニケーションに特化していることの発見は、様々な治療薬を標的細胞へ伝達するための他にはないアプローチも可能にする。さらに、この特性、仮にこの刺激(学習や豊かな環境といったもの…新しいことを学ぶ、いい音楽に触れるなど)がエクソソームを通じて脳の海馬のシナプス可塑性に関わっているとしたならば、その研究の成果は私たち人類にものすごい恩恵をもたらしてくれる可能性を示唆していると私は思います。

 

 

2021.8.24

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参考文献

 

エクソソームについて

 

1)東京医科大学医学総合研究所 分子腫瘍研究部門

 

 

2)Nature ダイジェスト 2014

 

※シカゴ大学の神経学者

Richard Kraig 2014.2 glia

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24339157/

 

3)オリゴデンドロサイトについて

中枢神経系のミエリン形成に必須の分子を発見 2021.7.7

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/glia.24058

 

中枢神経系の髄鞘形成におけるオリゴデンドロサイトの多様性 2019.10.25