「今日はありがとね」


カットの声が掛かったと同時にもう一度ハグの嵐にあう。


「いやいや、新番組の一発目に呼んでもらえて光栄よ」


返事を返しながらさり気無く距離を取った。


「それにしても、マジ悔しかったが此処だとはね」


呆れてみせると、お前はほんの少しだけ視線を落として薄く笑った。


「本当にマジ悔しかった事は他にもあるけど、それはテレビ的にねぇ」


確かに。
こっちもそれを見越しての事だから。
だけど、つい余計な場面があれこれと浮かんで来ては推理の邪魔をしたのは確かな事で。
やれやれオレもまだ人間が出来てないなと自嘲しつつ


「…じゃあ、次の仕事に行くわ」


背を向けようとしたオレに


「大変じゃあない?」


まるで子供を心配するような深くて真っ直ぐな瞳。


分かってる、みんなで納得が行くまで話し合った。
別々の道を行く訳じゃない。
選択肢が増えただけ。
これから同じ選択をする人もいるかも知れない。
また別の決断をする人も出るかもしれない。
それが容認される状況になったってだけの事。


ただ、もしかしたら今よりも会う機会は減るのかもしれない。
会えない時間が増えれば心は?
そんな不安を押し殺してお前を見返した。


「まあ、ボチボチやって行くよ。
じゃあね、お疲れさま」


思いが顔に出そうで怖くなってすぐに背を向けた。


「今度は俺が探しに行くから、また出てよ。
皆んなでの飲み会もセッティングする。
飯にも行こう。
フラッと会いに行っちゃうかも」

「どうした……」



背中に迫って来る声に思わず振り向いた。
いつの間にかすぐ側まで来ていた顔を見上げた。


「何か困った事があったら相談して。
無くても 連絡ちょうだい。
俺もするから。
俺たちはこれからもずっと一緒なんだからね。
絶対離れない…離さないんだから」


そんな必死な顔で言わないでよ。
こんな所で泣きたく無いんだからさ。


分かってるよ
何があったって俺たちは離れられないんだって
あの時思い知ったじゃないか
だから
大丈夫
何処にいたって何をしていたって
オレ達には帰る場所がある
そうだろ?


「お前に相談しても解決しなさそう(笑)
だけど、分かってるよ」


軽く腹パンしたら硬い腹筋にこっちの手の方が痛かった。


「痛ってぇ!お前普通のサラリーマン役なんだろ?なんでこんなにカチカチなんだよ!」

「これでも役に合わせて少し落としたの!
なんで、殴った方がダメージ喰らってんのさ」



文句を言い合って二人で声を上げて笑った。


やべっ、ほんとに遅刻だ。









終わり