「俺はもうダメだ。
行け、相葉、あとは頼んだぞ」


ビルの谷間を軽快に翔るターゲット。
この街を熟知しているらしく狭い路地を迷いなく縫っていく。


なんとか追えているのはついに俺一人。


全身黒ずくめ。
想像していたよりずっと華奢なその姿を捉えたのは今日が初めてだった。


前を走るそいつが一瞬俺を視界の隅に入れ、立ち並ぶ雑居ビルの中にその姿を消す。


見失うまいと目を凝らし狭いビルの階段を駆け上がった。


僅かな足音を頼りに五階建てのビルの屋上に出る。


街灯は遥か下。
離れた場所に建つ高層ビルの灯は届かない。
ポッカリと開けた暗闇。
屋上の1番端、落下防止柵の上にぼんやりと浮かぶ人影。
真っ暗で定かではないが、どうやらこっちを向いているらしい。


「動くな!怪盗suger!!」


くすくすっ


こちらの緊張感とは裏腹に楽しげな笑い声。


「怪盗?大袈裟な。ただのこそ泥だよ」

「盗んだことは認めるんだな!」

「さあ、どうかな?ふふっ」


人を嘲るように笑う。
その顔を雲間から覗いた月が照らした。


黒ずくめはスキニーパンツにパーカー、目深に被ったフードの中から覗く透き通るように白い頬と……
銀色の髪


これが…怪盗suger…か


ずっと追ってきたターゲットの姿に、俺の足は何故かピクリとも動かすことが出来なかった。


「あんたはオレを追ってるの?」

「あ、当たり前だ!」

「そっかぁ、じゃあまた会える…
かもね」


子供のように無邪気に笑ったと思うと、そのまま後ろに倒れ

視界から消えた。


えっ?落ちた!?


その時になってやっと動いた足で彼が消えた場所に駆け寄ると柵の外に身体を乗り出した。
同時にボスンッという落下音。


薄暗い街灯の下、分厚いマットの敷かれた車の荷台に仰向けに寝転びヒラヒラと手を振る銀の髪。
車はそのままビル街の迷路に消えた。


くそうっ!逃げられた!


だけど、収穫もあった。
初めて確認した、白く甘い顔。
月明かりに煌めく銀の髪。
仲間の存在。


今度こそ、必ず捕まえてみせる!




覚悟しろよ、怪盗suger







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