千秋はお人よし。
ネットでは毒も吐くし、
ノリもいい方だけど、リアルでは
人の顔色を見て、自分の願望を押し込めてるタイプ。
といっても、流されやすいわけでもなく、
本当にNoな時はNoとは言えるけど、彼女からしたら
ものすごく言いづらい答え。それがNo。
何年も前、大好きだった彼とは、
想いがいつしか消えたことに気付いて、
日々変わりゆく気持ちと態度に、関係は壊れていった。
そして来るべくして来た破局。
それからしばらく彼は作っていなかった。
ある日、実家が営んでいる店に、
アルバイトで来ていた好青年を、親から紹介された。
決してイケメンでもないが、
誠実で、たまに店で会う千秋に一目ぼれしていたのだという。
親は彼をすごく気に入っていて、
「あんた、別に好きな人いないなら、騙されたと思って彼と付き合ってみなさいよ」
確かに、一人で生きていこうと思うほど強くもないし、
かといって、その彼も、タイプではないだけで、悪いヤツじゃないことは判っていた。
推されるまま、千秋は彼との交際を始めた。
千秋はもともと、浮気をするタイプではなかった。
彼との時間が幸せかと言えば、幸せ。
でも幸せの絶頂を迎えたことは一度もなかった。
何より、口うるさい母親がお気に入りである以上、
親との関係性も前の彼よりだいぶよくなった。
家族が、より家族らしく付き合えるのは、彼のおかげでもあった。
当然のように、数年経って、千秋はその彼と結婚した。
両家共に喜んでくれた。
周りの友達も喜んでくれた。
千秋の心に、少しだけ「このままでいいのかな」という不安を除いては、
誰もが認め、祝福する夫婦だった。
-続く-
