$せつない広告屋


某飲料メーカーの
九州ロケは、
なんか天気がめっちゃ悪くて、
思うように進んでないのさ。
連日朝4時起きで、もうくたくた。



で今日はホテルの部屋で、
シゴトメールがメチャクチャ入ってて。

夜の11時、
トーキョーからのシゴトを片付けてたら、
なんと明日はロケ中止の連絡。
うっわー、窓の外は大雨だな。

こんな条件の揃った夜は、
自分探しするしかないなぁw
ちょっと息抜きするかなぁってカンジで、
深夜の街に出ることにしたのさ。


知らない街って、
スリルに溢れてワクワクするなぁ。
今日もヤバいことが待ってそうなカンジ。
なんちゃって。


ここ宮崎県は都城(みやこのじょう)
という 地方都市にいるんだけど、
もちろん土地勘も何も無いワケで。


テクテク歩いて、
なんかタクシーが並んでる路地を入ると、
うわーっ、そこはキラびやかな歓楽街!
何本もの細い路地にある雑居ビルの中には、
怪しいスナックやクラブの看板が、
ひしめきあってるな。



そいで
客ヒキのパンチなオニーさん&
ドレスを着込んだオネーさんの
獲物を狙う眼が光ってるわ!
もううじゃうじゃと。


傘で顔を隠して、早足の僕。
こんなとこでボッタクられたら、
笑い話にもならないよ。


こんな深夜の知らない街で、大雨の歓楽街。
水たまりに移り込む、無数のネオンサイン。
Vシネ系、キケンな展開だなぁ。
ポッケには
なけなしの3万円さ。




どんどん奥に入っていくと、
スナックとかサパークラブとかの看板に混じって、
スカル&ダイスをあしらった僕好みの看板。




薄暗いビルの1階をずんずん奥に進んでさ、
突き当たりの店ね。
中は見えないけど、
フライヤーがベタベタ貼ってあって、
ワルそーな匂いプンプンで。
重いドアを開けるロカオ。




店に入ると、
シンプルなバーカウンターに、
ハンチングをかぶったガタイのいいマスター。



腕にはびっしりとタトゥが刻まれちゃってるな。
壁にはジョージネルソンの、
ビンテージクロックとかかかってて、
装飾もロックンロールなノリでさ。



お客さんが誰もいない店内に、
ジーンビンセントの
Pink Thunderbird
が低く流れてるよ。




「いらっしゃい...。」

初めての顔だから、向こうもかまえてる。
バーボンソーダをお願いする僕。



「いい店だねー、この街にもこんなとこあるんだねー☆」
ニヤっと笑うマスター。
「ここだけですね。どちらからですか?」
トーキョーだっていうとさ、
マスターも昔5年ほどいたって言うのね。

バンドで当てようとがんばってたらしい。




僕もロカビリーバンドやってんだよー。
えーって、マスターはドラムだったんだって。
もうそっからは意気投合。
お互いバンド名も聞いたことがあって、
対バンはやったこと無かったんだけどね。
どうやら歳も一緒ぐらいで。
下北とか同じような場所で
遊んで。

こういうのって嬉しいなぁ!



2人で盛り上がってるとさ、
またドアが開いて、
常連さんらしいキレイなオネーさんが入ってきた。


僕の横1つ空けて、腰掛ける彼女。
どうやら地元の
ナイトクラブで働いてるらしい。

終わってから飲み直そうってワケね。




マスターが俺たちを紹介してくれてさ。
どうやら彼女だな。


トーキョーから出張で来たって知ると、
彼女も愛嬌のある笑顔で語りだしたのさ。
昔トーキョーで、オーディション受けまくったんだって。
女優を目指してて。
時代劇とかドラマで何本かは脇役もらってさ。
あきらめて帰ってきたんだな。



嫌なことも多かったんだってさ、
ふざけたゲイノー界で。



2人とも夢をあきらめて、
戻ってきたらしい、
今はクソみたいな生活だって言うのさ。
僕は3杯めのホロ苦いバーボンソーダを飲みながら、
ちょっとせつなく苦笑い。



そんな店内のBGMは、
バディホリーのIts so eazy。
リンダロンシュタットもカバーしてた、
名曲さ。



Its so eazy!
うんうんこの曲のようにさ、
ヘヴィに考えても
しかたがないコトも多いよ。
なるようにしか、ならない人生で。


僕はね、
気の利いたことは
何も言ってあげられないけれど、
まんざらアナタ達もカッコいいなぁ!


大切な夢に命賭けた一瞬があったってことが、
誇りになるんじゃないのかなぁ。
ピュアなハートを、
確かに持っていたって証がね。



あとさ、
僕は生まれも育ちもトーキョーで、
地元を出る勇気みたいなものも、
持ち合わせてなかったからね、
それがどんなに大変だってこともわからないけど。


いつか帰れる街やダチがあるって、
何だかいいなぁと思った。
少なくともココロの支えになってたハズさ。


それがどんなに
クソみたいな街でも。



そんなカンジで、
知らない街で出会ったロッキンな2人に、
握手して再会を誓った僕。
驚くほど安い飲み代を払って。



大雨のネオンの光の下で僕は、
好きな広告屋をやらせてもらってさ、
有り難いよ。

そんな責任をかみしめて、
今日からのシゴトも、
パーフェクトにキメると誓ったのさ。
悪天候くらいで負けられないな。


凛とした気持ちのよい空気で、深呼吸。
知らない街でちょっと切なく、
勇気をもらった僕さ。