「問い」の答え

本プロジェクトでは、今まで「ヒトラー政権下において、その当時のドイツ人が考えていたユダヤ人とはどのような民族か。また、どのようにしてドイツ人はユダヤ人に偏見をもつようになったのか。」という問いを立てて、その問いに答えるべく検証してきた。その検証の結果私が答えとして導き出したものを書きたいと思う。

ドイツ人は、ユダヤ人を自分たちよりも劣った人種、民族という偏見を持ち、そのイメージはユダヤ人に独特とされる「かぎ鼻」などに代表される。しかもそのイメージ自体がユダヤ人は血統において劣っているという認識を与えてしまっている。

そのようなイメージ、偏見がもたらされた背景には、ユダヤ人の長い歴史、優生学が挙げられる。これらによって既にあった偏見がもうひとつの主要な要因、ヒトラーの政策によって助長された。彼の政策によって、子どもたちは「反ユダヤ主義」の考えを無意識のうちに植え付けられてしまった。

したがって、この問いの答えとして「ヒトラー政権下のドイツ人たちは、歴史・優生学などによってもともとユダヤ人に対して偏見をもっていたが、それがヒトラーの政策により助長されてしまった」という結論を掲げたい。

 「ユダヤ人に対するイメージが生まれた背景①」で、原因の一つにヒトラーの教育政策を挙げた。しかしユダヤ人は、ヒトラーが政権に就いてからいきなり迫害されるようになったのではない。

 ヨーロッパにおける「ユダヤ人迫害」には非常に長い歴史がある。それはユダヤ教が成立した約2000年も前からあったが、時代とともに増し、そしてヒトラーによってそれがはっきりと明るみに出たといえるだろう。


 歴史、ヒトラーの政策のほかにも原因は考えられる。例えば、家族の伝統もしくは閉鎖的な階級制度によって受け継がれてきた結果生まれる偏見だ。幼いこども時代から「ユダヤ人は~だ。」と言い聞かせられてきたならば、本人はその自覚はなくとも反ユダヤ主義の考え方が身についてしまう。

 

 また、19世紀後期に広く流布していた生物学上の考察「優生学」を信じてしまうことだ。

1859年イギリスの植物学者チャールズ・ダーウィンは、その著書『種の起源』  において、生物の進化が「淘汰(=自然選択)」により引き起こされていることを発表、その後研究は彼のいとこフランシス・ゴルトンに受け継がれた。彼は初めて優生学を提唱し、淘汰の考え方を人間に直接応用し、優生学が誕生した。

 優生学にはA.積極的優生学とB.消極的優生学の2種類に分けられるが、ドイツを含め多くの国で行われたのは後者の方である。これは、「精神障害者や知的障害者といった重い遺伝病患者たちに産児を制限・隔離・断種を行い、その遺伝を断ち切る」というものであった。


 優生学による民族的偏見がユダヤ人に対する迫害を正当化し、「ドイツ民族はアーリア人の血を受け継ぐ高貴な優秀な民族であり、世界の覇権を握るべきであり、人種汚染して、ドイツを滅ぼそうとするユダヤ人、スラブ人は下等劣等人種であり、排除されなければならない」という考えに至らせた。

 とはいうものの、優生学を悪用し、ユダヤ人を遺伝的に欠陥があると国民に思わせたのはヒトラーを含むナチス・ドイツであるため、これは歴史的な問題というより、ヒトラーの政策によって生まれたイメージであるといえる。



 ~参考ウェッブリソース~

 ナチス優生学と人種民族ジプシー差別:鳥飼行博研究室

 http://www.geocities.jp/torikai007/1939/racism.html

 

 

3章 優生学とは何か

 http://homepage2.nifty.com/etoile/hansen/03eugenics.html



 


ユダヤ人に対するイメージが生まれた背景

           ヒトラーが行った政策―青少年への教育を通して―


 ヒトラー率いるナチス・ドイツは、青少年たちをどのように自分たちの組織の中に組み入れ、青少年たちの自由を奪い去り、彼らを自分たちのイデオロギーを詰め込んだのだろうか。その答えは「徹底した反ユダヤ主義」という、青少年たちへの教育にあるといえる。




○教育者たちの教化

 ドイツの学校では、民主的な教師は罷免されるか、年金つきで退職させられるか、もしくは閑職に追いやられた。最初は根っからのナチスの先生はごく少数だったが、多かれ少なかれ民族主義的思想の持ち主だった。また、新しい権力者に目をつけられないように、たいていの教師はヒトラー・ユーゲント1の積極的な勧誘員であり、学校の生徒を加入させるために家庭訪問まで行っていた。

 また定例会合で、教会問題は「ドイツ人キリスト教徒」という視点からのみ扱うこと、「ユダヤ人問題は政治問題として」理解すべきこと、「住民政策、人種政策という概念的道具」を使いこなすことを教え込まれた。


○学校の授業

 授業には、人種主義に基づく人種論2についての授業があり、そこでは種族のタイプの説明がなされた。生物の授業では、いろいろなアーリア人種について話をした先生が、何人かの生徒の頭蓋骨を測定した、ということもあった。これは、頭蓋骨の形、大きさでその人種が特定できるという人種論に基づいたものだった。

また国語の授業では、多くの世界大戦を扱った戦争文学を読むことが強制された。その中では、ヒトラーの『我が闘争』のユダヤ人問題に関する章も取り扱われたが、それを授業中に読ませる必要性があるのかどうかで問題になったこともある。というのも、授業中にユダヤ人問題をユダヤ人生徒たちの名誉心を傷つけるような仕方で扱うことによって、彼らが学校に居づらくなってしまう、という事態が発生したからである。




1 ヒトラー・ユーゲント

 1926年に設けられた、ドイツのナチス党内の青少年組織に端を発した国家の唯一の青少年団体。1936年の法律により、1018歳の子どもたち全員の加入が義務づけられた。学校外の放課後における活動で、準軍事訓練、肉体の鍛錬、祖国愛が集団活動を通じて教え込まれた。

 *2 人種論

 人種間には本質的な優劣の差異があるとする見解に基づく態度や政策(人種主義)によって生み出された。優秀民族支配論・有色民族劣等論などがある。


~参考文献~

H・フォッケ/U・ライマー著 山本尤/鈴木直訳 「ヒトラー政権下の日常生活 ナチスは市民をどう変えたか」(1984、思想社)