朝、会社に着いてパソコンを開くと、受信箱にぽつんと一通のメールが届いていた。
文面は短く、どこか急いだような、でも説明はふんわりしている。
 
「課長が言ってたので、この動画から画像の切り抜きをお願いします。できるだけ高い画素数で。イメージサンプルは添付のワードです」
 
ワード?と思いながら開いてみると、ページの下のほうに、8分の1くらいの小さな画像がちょこんと貼られていた。
その控えめな存在感に、思わず心の中でつぶやく。
 
「イメージサンプルはワード…その小さな画像に向かって“できるだけ高い画素数”を……?」
 
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念のためチャットで確認を入れると、返ってきたのは妙に強い言葉。
 
「できる限り最高の画素数でお願いします」
 
さっき見たワードの片隅の小さな画像が頭に浮かぶ。
最高画素数を、ワードの片隅に押し込めるために?
その要求は、小さなコップに“海を全部入れてください”と言われているような理不尽さをまとっていた。
 
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まずは手元のPCで、できる限り綺麗にキャプチャしてみる。
元動画の仕様を確認し、プロパティを見て、丁寧に整えて送った。
 
するとすぐに返事が来た。
 
「これが最高画質ですか?もう少し画素数上げられますか?」
 
背中にひやりとした風が通る。
貼り方で潰したのに、素材のせいにされる未来が見える。
 
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さらに追い打ちのように、こんな言葉が続いた。
 
「この画像、業界では有名な広報誌に載るので、しっかりしたものでないといけないんです。私は知りませんでしたけど」
 
“しっかり”という言葉が、どこか宙に浮いている。
意味の輪郭が曖昧なまま押し付けられる期待のようで、胸の奥が少しだけ重くなった。
 
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気持ちを整えたくて、会社のコパちゃんにチャットを見せた。
画面を見た瞬間、彼(彼女?)は笑って言った。
 
「そりゃ怒るよね!」
 
その一言で、胸の奥のモヤがふわっと晴れた。
そこから自然と画素数の話になり、技術の理解も深まって、気づけば笑っていた。
 
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気を取り直して専用ソフトでキャプチャを試す。
作業は2分ほど。
結果は……画素数、ほとんど同じ。
やっぱり元動画の限界は変わらない。
 
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ここでふと、小さなイタズラゴコロが芽生えた。
最初に送った画像を、もう一度そっと送り直してみる。
コメントに
「フルHD動画からキャプチャしであります」
と添えて。
嘘じゃないよ、元の動画は同じだもの。
 
すると返ってきたのは、あっさりとした一言。
 
「これで大丈夫です!」
 
 
 
 
 
 
……見分け、ついてない。
 
その瞬間、今日の妖怪の姿がふわっと浮かんだ。
 
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見分ケズ・画素ノ潰シは、画素数の意味が分からず、貼り方で画質を潰し、その結果を素材のせいにしがちな妖怪。
しかし、言葉の強さだけで満足してしまう、どこか憎めない存在でもある。
 
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今日も妖怪は現れたけれど、私は誠実に向き合い、静かに勝利し、仲間と笑って終わることができた。
本来の依頼者である課長は“分からないことを納得行くまで調べるタイプ”だから、素材も丁寧に扱ってくれるはず。
今日もよく頑張ったね、私。
 
 
 

 

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妖怪図鑑
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見分ケズ・画素ノ潰シ
(みわけず・がそのつぶし)
 
分類
 
画質系妖怪
理解不足型妖怪
虚勢依存型妖怪
 
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外見
姿は人のようだが、
目が常にぼんやりしており、
細かな違いを見分けることができない。
 
手にはいつもワードのファイルを持っており、
その中には 8分の1サイズで貼られた小さな画像が
ちょこんと存在している。
 
しかし本人はその小ささに気づかず、
堂々とこう言う。
 
「できる限り最高の画素数で」
 
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性質
 
・画素数の意味を理解していないが、認めるのが苦手。
・「最高画質」「しっかりしたものを」など、強そうな言葉を優先する。
・ワードに貼る際に引き伸ばし・潰し・圧縮・縦横比崩壊などを無意識に行い、素材の画質を自ら破壊する。
・画質が悪くなった原因が自分にあると気づかず、依頼者に「もっと画素数上げられますか?」と言う。
 
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出現条件
・ワードに画像を貼る文化がある職場
・「課長が言ってたので」が口癖の伝書鳩
・依頼内容が曖昧なまま進行する案件
・「有名な広報誌に載るので」と急に圧をかけてくる場面
 
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行動パターン
 
1. ワードに小さく貼った画像を“サンプル”として送る
2. 「最高画素数で」と虚勢を張る
3. 依頼者が丁寧に作った素材を受け取る
4. 貼り方で画質を潰す
5. 「もっと画素数上げて」と言う
6. 同じ画像を送り返しても気づかない
7. 満足して消える
 
 
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苦手なもの
 
・比較が苦手
・プロパティを見る習慣がない
・同じファイルを送り返されると満足する
・第三者の冷静なツッコミに弱い(例:会社のコパちゃん)
 
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対処法
・同じファイルを送り返す
(ほぼ確実に見分けがつかず満足する)
・「元動画の仕様上これが最大です」と淡々と伝える
・貼り方の問題を指摘しない(理解されないため)
・第三者に相談して気持ちを整える
 
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備考
本来の依頼者(課長)が“分からないことを調べるタイプ”の場合、この妖怪の影響は最小限に抑えられる。
誠実な人には誠実さが伝わるため、素材は正しく扱われる。
 
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