もうだいぶ前の話となります。
「向島の警察から連絡があったらしいよ、白髭のあたりに浮かんだんだって。」
町の噂好きの婦人部(ババァ連)が店に来て、井戸端よろしく事細かにまるで見てきたよう
に話をしていました。
「先月、駒形橋で見つかったツッカケが○○さん(女性)のだったのよ」
もひとりの婆様は幾分声を落としたようなひそひそなる大声?で
「あの五十路女も大変だったんだろうよ、きっと、お金持ちなのにね~。」
「へェー、でも駒形から飛び込んで浮かんだ先が白髭橋?逆流じゃない。」
「なんで?」
婆さんたちは、もう人の命の事より物理的なことに興味が移っていきます。
そしてだんだんと話はブレていきます。
「でさ~、20日間あまりでようやく身元が判って御主人に連絡が来たのはいいんだけど、
検視後事件性はないけど身元不明者として決められた期間は専用冷蔵庫で保管され
てたんでね、引き渡し時170万円の費用請求されたんだって、事件だったら捜査費用の
一環らしんだけど自殺者はナマモノの預かりもん扱いなんだって。だから実費負担!。」
「え~!170万もね~、警察って1泊いったい幾らなんだろうね?保険 きくのかね?」
「保険?、冷蔵費用の? 」
「生命保険だよ、馬鹿だねアンタ。」(笑)
「自殺じゃー出るわけないじゃん、でも墨田区は警察も高いんだね~値引きとかないのかね?」
「死人に介護保険は利かないよ。度数だってきまっちゃないだろう?」
「おいおい???天然のバー様だ 敵わんわ、こりゃ。」
不謹慎ですが小耳に挟んでしまったこの私も焦点がずれた会話を聞いて苦笑して
しまった記憶があります。
隅田川に関しては地元の人間でもあまり知られていないことが有ります。
昔、祖父から聞いたことですが、時としてこの川は底が逆流しているのです。
埋め立てで東京は広くなり海が遠くなりましたが、江戸初期は蔵前から先はもう浅瀬の東京湾
だった名残りなのでしょう、潮の満ち引きにも多少影響されているみたいです。
祖父の子供のころ(明治時代)はまだ遊泳可能な河川で水もきれいだったそうです。
古来より川沿いでは一番盛り場として繁栄した浅草、現在この付近には代表する5本の橋が
架かっています。
言問橋、吾妻橋、駒形橋、厩橋、蔵前橋と。
(駒形橋)
江戸の昔より何かと出入りが多かった繁華街浅草ですから、川に身を投げるかたの殆どが前述
の五橋付近からだったと思われます。
この大川に身を投げると大方7日~10日後くらいに土左衛門は汐入(現:白髭橋上流)あたりに
浮き上がるそうです。
汐入の名の通り東京湾の塩水も上層の真水の流の下に逆流のながれを作り汐入のあたりま
でくると極度に歪曲し狭まった護岸に底流を止められます。
もうこの先は狭まって千住の先小台あたりで荒川と合流します。
止められそうになった底部水流は対流となり上に押し出され上層部へ上がります。
そこまで逆流内にのったごみや色々なものが表層に浮かんできて水死者も浮かぶわけです。
川の清掃船もこのあたりから始めて築地方面へと下ります。
江戸期にはここの左岸には泪橋から突き当たった刑場があり陸地も江戸のそれははじっこの
吹き溜まり、川も溜り場となっていた場所でした。
浮世に生き場所を見いだせなかった屍は、暗い逆流に漂い最後の水旅となります。
恨みつらみやさまざまな存念も、すべてもう 「済みだの川」 に流してください...。
信楽易行水道楽 憶念弥陀仏本願
冥途 in 浅草のお話でした。
寒暖の差が激しくなってまいりました、皆様もご自愛下さいますようお願い申し上げます。
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和紙屋オヤジの独り言
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