「っくそっ…!!」
怪我が完治してからまだ二日目だってのに、こんなのはあんまりだ。
「珠紀ちゃん大丈夫?」
「は、はい。…それより先輩、これって……」
辺りを見回す彼女もそろそろこの非日常に慣れたのだろう。落ち着いている。
私は頷くと、珠紀ちゃんを庇うように前に立つ。
「そ、結界。…しかもこれは」
言いかけたその刹那。
周りの空気が一変した。
不穏で曖昧な気配をまとっていた空気は、確かな邪気を纏ったものに豹変する。
そして、空間が捻じ曲がったかと思うと一つの影が浮かび上がるのが見えた。この気配には覚えがある。
あの夜聖女のもとに集った三番目の従者―――
「ドライ。」
「ほほう。中々鋭いな、成長したと見える。」
布にくるまれた戒神斬をそのまま抜き取り、ドライに向ける。
「あんたに褒められてもこれっぽっちも嬉しくないわ。…何の用?」
「何。対した用じゃない。君らが
動けるようになってから日が浅いうちに片付けようと思ってな」
珠紀ちゃんに下がるように視線を投げると彼女は確かに頷いた。
そして、ドライが言い終えるのと同時に地を蹴り、刃を振り下ろす。
「っ!!」
が、相手に到達する前に衝撃波が刀とドライの間を阻んだ。
弾き飛ばされ宙で重心を失った自分の体を衝撃が襲う。ぶつけた背に冷たい空気が這う。きっと制服が破れたんだ。
「頼子先輩!!」
甲高い悲鳴が響く。
ゆっくりと体を持ち上げると顔を歪ませる私を見下す様に魔術師が笑っている。それが余計怒りを逆立てた。
「人の話は最後まで聞くものだよ。フェヒター」
「一応最後までは聞いていたつもりなんだけど
ていうか、あんたさ私を始末しに来たんでしょ?珠紀ちゃんは関係ないじゃない。彼女だけここから出して」
「それはで叶え難い願いだな、フェフター。もしシビルが他の者を呼んできたら今までの私の苦労が水の泡だろう?
なにより、上手くいけばシビルももって帰るつもりだしな」
「ははっ。まさか守護者がそれを許すとでも?あなたを殺して生きて返るから。…それか、玉依姫だけでも返す」
背後で珠紀ちゃんが息を呑むのが分かった。
本当なら今すぐ逃がしてあげたいんだけど、今この状況じゃ間違いなく術の途中で殺される。
私は死ぬわけにはいかないんだ。
こんなところで死ぬ?ふざけるな。
彼らを、彼女たちを封印の束縛から解放するために私は生きてきたんだ、生きるんだ。今までも、これからも。
「いつでも走れる準備してて。珠紀ちゃん」
「い、嫌です!先輩だけを残したくないです!」
そんな甘ったれたこと言ってると、いつか必ず死んじゃうよ?
そんな言葉を飲み込んで、私は代わりに振り向いて微笑んだ。
それから先は別世界だった。
私が刃を走らせば、彼も闇の使者を送る。そのくり返し。
しかし、じりじりと体力と集中力は奪われていった。珠紀ちゃんの安否も確認しながらベルゼブブを凌ぐのは正直キツい。
小さな悲鳴が聞こえれば急いで姫の安否を確認してまた前方へ意識を集中させる。
………分かる。このままだと必ず私か珠紀ちゃんが死ぬ。
そして、向かってきた闇の使者に思い切り戒神斬を振り下ろし、私は叫ぶ
「珠紀ちゃん!走るよ!」
我に返ったように小さく瞳を見開くと彼女は頷く。それを確かに見届けると、ポケットに手を突っ込み無造作に紙切れを取り出す。
今朝、美鶴ちゃんの懐から拝借してきた霊符だ。
前回の珠紀ちゃんが使ったのよりは霊力が篭っていないため、使い方を間違えれば何の効果もなくなる。
「走る?まさかこの状況で逃げられると思っているのかね?」
もう一度にやりと笑うとベルゼブブの勢いが激化する。
「逃げられると思ったから走るのよ。」
同じく笑い、霊符を突き出す。
そして右手の刀を操りながら呟く。今残っている力をすべて乗せて。
「略法。伏敵。急ぎ律令の如くせよ」
彼女の手を引っつかむと、走り出す。
霊符から満ち溢れた光の矢とそれから滲み出る光が教室を包む。闇の使者が消え失せる。
間違いなくドライは生きている。勿論、これは目晦ましの為に放ったものだ。
自分の狙いは一つ。彼女を帰すこと。
……何か段々帰らなくていい気がしてきたし。せめて彼女だけでも帰そう、そう思った。
「珠紀ちゃん。先行って」
走りながら言うと、首を振る。
「嫌です。先輩だけをおいて行きません。置いていけません!」
「ですよね…」
まぁ、想定内。想定内。
奥の手ってこの為にあるんだよね。多分。
「急ぎ、我に命ずる。境界線を越える力を彼女に…」
教室に滑り込み、彼女に手をかざす。
「強制送還。」
その後の詳細はあんまり覚えてない。
嫌だと、叫ぶ珠紀ちゃんを強制送還して、自ら廊下に飛び出した。
何だかんだ言って死にたくないと思っている、己を制して。
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思ったより長くなった←
このあとは想像してくんさい。BADか、HAPPYか。
続きは書きませんよ。書けませんから←
主人公は小鳥遊頼子。高校3年生で守護五家の方々と幼馴染。初恋の相手は真弘先輩。
両親をなくして高校1年生の弟の忍と村を出たんですね。
そして、頼子は戒神斬の使い手、豊栄姫(とよさかひめ)。忍は術式使いとして村に戻ってきたんです。
という訳で長くなりましたが閲覧ご苦労様でした。
………珠紀ちゃんもっと出したかった←