Porgy Take - 小説を書くブログ -
Amebaでブログを始めよう!

処女作

 「明日の正午にまたこの場所に来てくれ。」
 サングラスの男はそう言い残し、夜半の月影に消えた。昨夜の出来事だ。
 勉強、スポーツ、恋愛、仕事。生まれて二十六年、未だ何一つ成し遂げられていないたかしにとって、その男の誘いは魅力的に映った。彼には自信がなかった。日常の、小さな成功で得られる程度の達成感ではもはや満たされない程に。
 たかしは何の変哲もない片田舎で生まれ、何の不自由もなく少年期を過ごした。ところが、それが彼にとっての不幸だった。彼には逆境に立ち向かい、恐れずに挑む力が育たなかったのだ。何事にも挑戦することのない学生時代を過ごした後、地元に企業に就職したものの、二年で辞めてしまう。彼は実家で暮らしながら、かねてからの夢であった小説家を目指すことにした。
 もちろん、このような彼が小説家として大成するはずはなかった。小説を書き、いくつかの文学賞に応募したところで、それは自分と、自分の周りの者達への言い訳でしかなかった。会社を辞めて三年が経って、変わらぬ日常に対するあせりが限界へと達し、たかしは夜中の公園にふらりと立ち寄る。そうして、その男は現れた。
 「ベストセラー作家にならないか?」
 ブランコで、いかにも暗雲立ちこめる様子で佇んでいるたかしに、サングラスの男は声をかけた。身体は細長く、色白な肌にフォーマルなスーツを着込んでいる。誰が見ても怪しい風貌だが、あせり、萎えきり、判断力の鈍ったたかしには、それよりもまず男の言葉が引っかかった。
 「なれるものならなりたいさ、いますぐにでも。」
 「俺は広告代理店の者だが、ある本の著者となってくれるやつを探している。もう書き上がった本なんだが、内容はとある企業とのタイアップになっていて、大々的に売り出したいと思っている。それで、メディアに著者として登場し、派手に宣伝してくれるやつが必要なわけだ。そこで、小説家を目指しているお前にこの仕事をお願いしたいと思っている。」
 なるほど確かに、男の言う通りならばベストセラー作家になれる。たかしは思った。ただし、どこの馬の骨とも分からないやつの書いた宣伝本の作家だ。ゴーストライターならまだしも、代作される側になるなんて。
 それでも、変化を求めていたたかしが、この話に乗らないわけがなかった。その日の夜は眠れなかった。記者会見でどんなことを言おうか、印税で何を買おうか、女の子にモテるだろうか。浅ましい。だがしかし、誰もがいつかは通過するであろう、浅ましい胸の高鳴りであった。
 公園は家から近かったが、特にすることもないので、三十分前からたかしは男を待っていた。その頃になってようやく、騙されているのではないかという不安も出てきたが、一度は心を奪われたのだ、たかしにはもうどうすることもできなかった。
 ちょうど十二時、男は現れた。ただし、警察官を二人、引き連れて。
 たかしは動揺を隠せなかったし、混乱して状況も理解できなかったので、とにかく逃げ出した。それは無駄なあがきで、特には運動能力に優れていないたかしは、すぐに警察官に捕まった。
 「詐欺及び恐喝の容疑で逮捕する。」
 たかしは激しく暴れ、錯乱していたが、警察官がそのようなことを叫んだのを耳にした。やはり、あの男に騙されたのだ。理由は分からない。どうでもいい。ただ、彼の夢や日常、いや、生き方そのものが完全に崩れ去ったのだ。
 なぜこのようなことになったのか、たかしは振り返る。今となってはもう遅いが、自分は困難に立ち向かわなかった。逃げていたのだ。何から逃げていたのだろう?生きることそのものだ。変化を求め、そして、常に変化しない道を選んできた。挙げ句、安易に変化を得られる道を探し、悪魔のささやきに負けたのだ。
 これから彼はどうなるのだろうか?これは大きな災難であった。しかるに、変化である。彼の人生は今日始まったのである。

はじめまして!

はじめまして!えいとです。

文章を書きたいという熱い衝動に駆られブログを作りました。
といっても、ブログを書くのも小説を書くのも初めて…

至らない点だらけですが、よろしくお願いします!