【完璧症候群】






 男は完璧に囚われている。

 自身の生活を分単位で決めており、それから外れる事を決して許さない。決まった時間に目覚め、決まった時間に寝る。料理をする時も決められた分量をきっちりと守り、同じ味を再現し続けていた。
 完璧は心地が良く、また、完璧に行動してそれを達成している自分の事がますます好きになった。

 そんな自己愛と彼の物事をきっちりと性分は会社での評価を得て、30を手前にして異例の出世を果たしていた。俗にいうエリートコースというやつだ。

 誰しもが思い描く完璧な人生設計は地で行く彼は、自身のうちに満たされたものを感じつつも、どこか形容し難い想いも抱えていた。

 (私の人生は完璧に進んでいる。しかしなんだ?この一抹の不安の様な違和感は?)

 自分は完璧にやっている。そんな自負とそれに見合う実績が彼の違和感の正体を気づかせる事を妨げていた。

 己の中の無理解は次第に内側から溢れ出し、周囲にもその手を伸ばし始めたいた。彼は自分の内だけに留めていた完璧を周囲にも求める様になった。

 (何故こんなことも完璧に出来ない?)
 (中途半端にしていて気持ち悪くないのか?)
 (理解が出来ない)





 無理解。それは次第に姿を変えていった。



 初めは小さな疑問だったものが、次第に小さな苛立ちとなり、やがて拒絶にも似た怒りの炎へと変貌していた。



 ある時、自身の部下が同じミスを繰り返した。新卒の頃は優秀な人材と言われていた彼は、男の元で働き二年目を迎える頃には当時の自信を損失し常に足取りが重くなっていた。

 男は理解出来なかった。何故一度教えられたことをまともにこなす事ができないのか。一から十まで懇切丁寧に教えている。一から七まで教えて残りを自分で考えろといった、職人の様な教え方をしたつもりは一度もない。技を見て盗めだなんて、そんな非効率的な教え方、完璧からは程遠い。

 (私は完璧なプランの元、彼を育てた。それでも陰鬱な雰囲気で過ごしているというのであればそれは彼自身の問題だ)



 男は部下に見切りをつけた。怒鳴り散らして改善するなら考えものでもあるが、そんな事をしても良い結果にはならない事を知っている。それよりも新しい部下にリソースを割いた方が効率的と考え、それらに尽力した。男に見切りをつけられた部下は程なくして会社を去った。




 それから数年の時が経った。その間、彼の身の回りに変化があり、彼の「評価」にも変化があった。




 「男の元についたら潰される」




 初めて部下が去ってから数年経ったが、それ以降彼の元で働いた者達は全員会社を去っていた。




 



    続く