思ったことが言えないこどもだった



思う通りにならなければ途端に機嫌の悪くなる父親

人を従える自分に酔うタイプ

子どもは自慢の種にしたい



意思を持ってやりたいこと欲しいものはあまりなかったし

数少ないそれも主張はできないし仮に主張しても通らない



態度は良くなかったし素直でもなかったけど主張もできなかった、

今思ってもひねたつまらないにんげんだ



今仕事してる私をみたら親はびっくりするだろう

まわりのひとにはそれでも主張の弱い押しの弱い人間と言われるが





そうやって20歳になる頃、成人式の振り袖を買ってやると言い出した



買ってもきっと一度しか着ない

着物に思い入れもないし

勿体ないから買わなくていい



心からの訴えは当然通らなかった



書き忘れていたが父は成金趣味

資産もないのに



毎週末和服やをつれ回された



着物は綺麗だ

最初は見ていて楽しかった

が値段を見て血の気が引いた

一番安いもので、セットで20万から

上は天井は無い



父は見栄で一番安いセットなど買いはしないだろう資産もないのに



私は学費も払わずバイトもしてない学生だった

着物なんてもう着ることもない

良さもわからないのにこんな高価なものを?



だんだん憂鬱になった

着物の綺麗さももうわからない、

父親にすり寄る店員も見栄を張って冷や汗を垂らしている父親も気持ち悪い



意見は聞かれるが通らない

なにも考えられないまま店員と母親ののなすがまま



着物は、真っ赤な、お花を散りばめられたものに。

派手なものが嫌いだという好みは知っているが通らなかった。30万くらいだったか。



そして帯。今でも思い出す。



高い中でも、少し、気に入ったものがあった。

扇の柄が全体に入った淡い色合いの帯。

曲線の模様がやわらかく、美しかった。

30万か40万か、とても恐ろしい値段だったが、それでも少し、良いなと思った。



そこに全体に様々な金糸の刺繍の入った帯を持ってきた。

当然扇の帯より20万だか高かった。

全体に格子のなかに模様を刺繍してあるような、幾何学的な。

豪華な帯で、美しくはある。



私は値段を別にして扇の帯の方が好きだった。

華美な振り袖が少し落ち着いた雰囲気になりそうなことにも期待をした。

数少ない、私の思い。



しかし母親が後者を気に入ってしまった

高いものを見せられ過ぎて感覚が狂っていたのだろう

刺繍素敵ですねぇなんて言っている

こっちの方が価値があるのよ、という

そりゃ20万ぶんの手間と費用がかかってんだから



わたしの弱々しい

「こっちがいい…」

は、テンションの上がった店員と母親には全く通らなかった



ねえこっちにしましょう

お母さんたちのためだとおもって



なんのための着物だよ

だったらもう意見聞くなよ



私は完全に考えることを放棄した

勝手に金を使えばいい

私がほしくないものを勝手に買えばいい



総額おおよそ100万前後



ほとんどわたしの好みでないが、

成人式でわたしがきるものたちは

我が家のものとなった



帰り道車のなかは

熱気から解放されて良い買い物をしたと思いたい陽気を装う両親と

誰も幸せにならない100万の事を思って絶望する私で

地獄のようだった



良いものを買ったな

そんなかおするなよせっかく買ったのに…

少しは喜んでほしいよ



機嫌をとる母親



ほしいものの説明も主張もできないで

何が成人式だ

欲しくもない真っ赤な着物ときんきらの帯

親の脛かじって買われて七五三か

情けなくて涙が出たのを覚えている



届いた着物と帯は確かに高そうだがはやはり価値がわからず心根の身の丈には合わなかった



それでもせめてたくさん袖は通してやらねばと思ったが

成人式とその写真撮り、大学の謝恩会で気まずい思いと共に着用したあと

振り袖を着られる歳は遠くに過ぎた



3回、帯に至っては2回(謝恩会は袴だったので)



ああ、勿体なかったな…

あの時わたしが、きちんとコミュニケーションを取れる人間だったなら。

同じくらいお金を使っていたとしても、

好きな着物を着てあの時を過ごしたかもしれない。

苦い思い出である



自己主張の激しい人間になったいま。

(まわりからは笑われるかもしれないがあの頃に比べたらとんでもない我が儘と素直さを手に入れたのだ)



最近着物が着てみたい

と思うようになって

リサイクル着物を手に入れた



一枚1000円。帯も1000円(半幅帯だけど)。



値段は数百ぶんの一だが

じぶんで、いいな好きだなとおもったものを手に入れてにこにこしてる。

やっと成人した気持ち。



そして押し入れに眠っている着物と帯に申し訳ない気がしてきたので

今度実家に帰ったら、少し外に出して眺めてみようかなと思っている

いまなら少しは好きになれるかもしれない



あ。あの時赤い着物を買ってひとつだけ良かったこと。

案外わたしの顔色は赤が合う、と知った。

赤い服が気持ち良く着られるようになった。

赤い着物もまた買おう。

元彼と会う約束、の連絡をとっていた



実家に帰っていて

気がついたら約束の日が過ぎてて

謝って約束しなおそうとしたら



気にしていなさそうな返事と

俺と付き合うのは大変だよ?というメッセージ



ああそうか、付き合っているわけではなかったんだ



と醒めた気持ちになり



祖母をだきしめて
絶対にダメなのに
幸せな
どうにも幸せな時間