拓海たちが事務所に戻ってきた。三人で調査報告会が持たれ、論点の整理を行う


・一昨日の夜、家に帰ってきていない。さらに昨日の朝になっても姿を現していない。身持ちは固いはずなのに

・アパレル会社を経営している旦那。彼は少し体が弱い質。若い女店員たちと仕事している。婿養子として葵ちゃんと結婚。彼女に少し頼りっぱなし

・店の経営状況は悪くはない。また旦那と葵ちゃんの仲も問題ないようである

・旦那が目撃されたのは、バー「ラモーネ」。ここのマダムは、旦那に個人的には好意をもっているようだ

・最後の「蒸発」したと思われる場所は、家からは離れた酒川らしい


拓海「大まかにはこんなところで、問題はバーでの目撃ということにある。葵ちゃんには悪いが、マダムが旦那を気に入っている点がポイント?いや酒川での蒸発がいちばんの謎か?」


一馬「目撃については酒川とバーの位置関係はまったくの正反対にあるし、解せないね」


マリアンヌ「葵ちゃんは旦那のことをとてもほめていたわよ。女性たちに囲まれても、仕事はきちんとしていたって。ただ商売柄つきあいが多くて、夜は街に出て飲むことが習慣になっているとも」


拓海「マリ、いいところに目をつけているね。一馬の言うとおり、バーと酒川の現場把握を自分たちの目で確かめてウラを取る必要がある」


一馬「つまり、バーと酒川での目撃者探しだね」


拓海「オレはラモーネ、一馬とマリは酒川を当たってくれ。あとマリは葵ちゃんにもう一度接触してくれ」


マリアンヌは「マカセトケ」と言った。一馬は自分よりさきに言葉を発したものだからびっくりした。しかも、けっこう難しい日本語がわかる彼女をマジマジ見つめた


マリアンヌ「一馬、なによその目つき?」


拓海「あははは。一馬、お前マリに睨まれてるな。でも彼女のまなざしは、からかってるよ」


一馬「ったく、拓海のやろうめ」


翌日の午後三時過ぎ、三人は事務所でコーヒーを飲みながら話しあっている


拓海「みんなご苦労さん。俺からはじめるよ。マダムの話では、店の外に出て見送ったときハイネックのノースリーブワンピースを着た女に話しかけられて、一緒に歩いていったとのことだ。いまは夏なのに、首が暑くないのだろうかと思ったって。なお時刻的には、午後9時過ぎ」


一馬「酒川沿いのグルメ屋台をあたったら、旦那を知っている女店主が女性と歩いているのを見たということだった。午後10時半ぐらいで、彼女は透きとおるようなチュニック風のトップスなのに、ボトムスはレース風のスカートできれいな脚が見えるのみだったらしい。奇妙なコーデだなと思ったって」


マリアンヌ「ふ〜ん、バレエをやっていたわたしには、ふつうのコーデに思えるわ。葵ちゃんは旦那さんの身を案じていて、疲れてしまっている感じだったよ」


一馬「それともう一つ、酒川では昔から「水女」という妖怪が出没して、いい男にはちょっかいを出すということだった」


拓海「それを言うなら、ハイネックの女は「首なし女」かもしれない。つまり、首がないのでそこだけ隠す妖怪」


マリアンヌ「妖怪ですって。わたし、好きよ」


拓海、一馬「いまは違うだろう!」


マリアンヌ「ご、ごめ〜ん。つい・・・」


拓海「首なし女に水女か。とりあえず調べよう。でも文献なんぞないし、ネットしかないか」


一馬「それ、もう調べてあるよ。俺も妖怪好きだし。結論から言えば、水女はY県で取りあげられているくらいで、水の気を持っていて、弱い男にそれを与えるとくずれて水に戻るらしい。首なし女はわからない。これ、結局は首は「透明」で顔頭は浮いているってことになる」


拓海「う〜ん、時刻的にも水女が奇しいな」


そのときあたふたと事務所を訪れた者がいた。葵ちゃんと旦那だった


旦那が言うには、ラモーネから知らない女に連れられて酒川に行ったらチュニックコーデの女を紹介された、その端のほうで抱きつかれたとたん男としての力が漲るのを感じると同時に彼女は濡れたように水になった、とのことである。三人と葵ちゃんは唖然として、腰が抜けたようにへたりこんだ。彼らの心配は、二つの奇っ怪な結末のなかに消えていった


「拓海、一馬、調査費の請求はしないわよ。でも、やっていけるのかなぁ〜」と、マリアンヌはウィンクしながらぽそっと二人に話しかけた


◾️憩いの準動画


首なし女と水女




◾️出典:日本怪異妖怪事典 東北 、Yahoo画像




◾️お楽しみいただきまして、ありがとうございました。次回作は暇がかかるかもしれません