Barで過ごすひと時を・・・ with 小説『営業SMILE』 ~君の笑顔信じてもいいですか?~ -506ページ目

『営業SMILE』 第一章 連載.12

まだ時期的に早かったのか、鮟鱇は少し小ぶりの物しか入らなかったようだ。

けれども一匹を丸ごと使った料理は非常に美味である。

 

刺身に鮟肝、モツの湯通しを肴に酒が進む。鮟肝を薬味と共に刺身にのせ、それを一緒に口に放り込む。最高の食べ方の一つだ。

 

先生もかなり満足のようで、とても口数が増えている。

 

「次は鮟鱇の鍋物をお持ちいたしますね」

 

女将はそういうと、座敷をでて下に降りて行った。

 

「やっぱり冬は鍋物に限るね。若手と一緒に美味しいものを食べながら、話をする機会がもてるなんて僕は幸せ者だよ」

 

そう言って先生は二人に酒を注いでくれた。

 

「失礼いたします。鍋物をお持ちいたしましたよ。熱いので気をつけて食べてくださいね」

 

女将が土鍋の蓋を開けると、鮟鱇のとてもよい香りが白い湯気とともに座敷に広がっていった。

 

今宵の宴はかなり満足のいくもので、めずらしく雄司も酒がすすんで上機嫌になっていた。鍋の残り出汁で作ったおじやも格別で、かなりお腹の膨れた三人は座敷でしばしの余韻に浸っている。

 

「雄司君。美味しい料理はここで十分堪能させてもらったし、次はどうするんだい?」

 

酔ってすっかり赤ら顔になっている先生は、当然のように聞いてきた。

 

「いい店知っているんじゃないの?」

 

この展開は予想されていたものだった。

 

「当然もう考えてありますよ」

 

「そうかい?お腹はもう一杯だから軽く飲みに行くのもいいよね?」

 

「わかりました。じゃあ先にここの勘定を済ませてきますので、少し待っていて下さい」

 

そう言って雄司は座敷をでて下へと降りていった。

 

 

 

To be continued〕

 

 

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出張より帰還

呉市

すっかり物書きの気分

『営業SMILE』 第一章 連載.11

 片町からほんの少し離れた場所に木倉町と呼ばれる通りがある。雄司は同業同世代の友人と二人、ここ木倉町にある一軒の割烹料亭の店先いた。いつもの先生を接待する為である。日中天気が良かった為か、放射冷却現象でかなり夜は冷え込んでいた。

 

「雄司。寒いぞ」

 

友人は日中暖かかったからと、簡単なハーフコートしか羽織っておらず、ガタガタと震える身振りをしながら文句ばかり言っている。

 

「待ち合わせって二十時じゃなかったっけ?」

 

「先生が遅れるなんていつもの事だよ。おっ?噂をすれば先生のご登場だ」

 

雄司は手を振りながら大きな声で先生に呼びかけた。

 

「おぉ、お前らすまんなぁ。歳をとるとこの寒さで身体が思うように動いてくれん」

 

こちらに気づいた先生は笑顔でのらりくらりと歩いてきた。その時雄司の横を一陣の風が吹きぬけた。先ほどまで愚痴ばかり言っていた友人は勢いよく先生の横まで駆けて行き・・・・・・

 

「先生。今日は先生の大好物の鮟鱇尽くしですよ」

 

そういって先生の手を引き、店の中まで案内して行く。

 

ポカンと開いた口がしまらない。まさに言葉どおりだった雄司も正気に戻り後に続こうとした。

 

店に入り女将さんの案内について行こうとした時、こういった割烹料亭には似つかわしくない『浜崎あゆみ』の歌が鳴り響く。

 

「雄司、先に行ってるよ?」

 

「すまん。すぐに電話終わらせるから……」

 

そういって再度店の外にでることとなった。

 

 

 携帯の着信音で誰からの電話かはすぐにわかる。コートから携帯を取り出した雄司は、なんとなく周りに誰もいない事を確認してから電話にでた。

 

「もしもーし。雄司さーん。お疲れー」

 

「お疲れ……じゃないって。今接待中だよ」

 

「えぇー?だって今日来るってメールで返事くれたじゃん。なかなか店に現れないから、亜由美寂しくて……本気で、本気で目が潤んでいたんだよ?」

 

見事なくらい悲しそうな声をだす亜由美。

 

「だから……今接待中で、この後にお偉いさんを連れて行くつもりなんだって」

 

「そうなんだー。今仕事頑張ってるんだね?わかったよ。亜由美も頑張って待っているよ。仕事頑張る雄司さんって素敵だよ。じゃあ後でね」

 

そう言うと亜由美はさっさと電話を切る。

 

「……相変わらず営業熱心だよな。一方的だけども」

 

言葉とは裏腹に、雄司は笑顔で店の中へ戻って行った。

 

 

To be continued〕

 

 

 

 

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