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外資系 戦略コンサルタントの着眼点

戦略コンサルでマネージャーを務める筆者が日々の出来事を独自の視座で書き綴る


「戦略の要諦は戦わずに勝つことである」といわれることがありますが、経営戦略においても戦わずに勝つに越したことはありません。
(一方で「戦略の要諦は奇襲にある」と言ったリデルハートについての記事はこちら

ある市場で敵と戦わないには、新たな市場を生み出すというやり方か、それ以外にも「そもそも敵を参入させない」、「参入しても動けないようにする」という方法もあります。

P&G
が花王の世界主要マーケットへの進出を阻むために、日本市場で執拗に花王にチャレンジしていると言われたことがありましたが、これは「そもそも敵を参入させない」という障壁の作り方のひとつです。

また、海外進出の際に、現地企業の甘い言葉に乗ってJV(合弁会社)を組み、排他的条件でマイノリティ出資をしてしまったがために、その市場で身動きを止められてしまうことがありますが、こうした「参入しても動けないようにする」罠に嵌められた日本企業もいくつか知っています。

日本企業の海外進出が増えているなかで、特に新興国の財閥から、こうしたJVを使ったいわゆるHoney trapが張られることは今後も増えそうです。

以前、クライアントが似たような罠にかけられそうになりました。
国内なのですが、そこでJVを組んだが最後、そのまま飼い殺しになる寸前のところでスキームを変えることに成功。

寸前までクライアントはこんなチャンスはないんじゃないか?と言っていましたが、相手は百戦錬磨のIT新興企業。性善説に立ちすぎで、国内でこんな甘い認識であれば、世界に出たらあっという間に餌食です。

日本の消費財企業が世界で負けている理由の一つに、グローバル企業や地元の財閥によるえげつない仕掛けに足元をすくわれてしまっていることがあると感じるときがありますが、このあたりは組織としてグローバルに経験を積んでいるわれわれがお手伝い出来る部分かもしれません。



海外の巡回はほぼ一段落。
ここ1ヶ月半で韓国、シンガポール、タイ、インドネシア、インドを含めて回ってフライト数は12回を数え、時間をかけただけあって狙いであった市場性はかなり見えてきました。

ゴールデンウィーク明けの週にはスペインとシンガポールがあるため、まだしばらく移動が必要ですが、多少腰を据えて仕事に取り組めます。

つい先日に別の消費財メーカーと話をしていたのですが、その企業が気にしているのは中東とアフリカをどうするか。

これまで特にアフリカについてはほとんど目を向けたことがなかったのですが、現在の人口9億人、2020年に12億人になることを考えると、今から何らかの手を打っておかなくてはいけないことは確実です。

現在でも石油産出国であるアルジェリア、リビア、ナジェリアについては一人あたりGDPも高くなってきておりGDP規模もそれなりになってきていますし、石油輸出がなくても南アフリカ、エジプトの経済発展のスピードは著しいものがあります。

という、にわか仕込みの知識で議論をしていたのですが、この流れだと今年中にエジプトに行かなくてはいけない可能性も出てきました。

いずれにせよ、あと何十年かビジネスの世界にいるのだとすれば、アフリカに関わっていかなくてはならないことも確実であって、徐々にさらに先の国の知見も増やしていく必要があります。


以前、タイムマシン戦略の限界について触れたことがありますが、新興国には新たな発展の方程式が存在するのではないかと、ここのところ感じます。
(タイムマシン戦略に触れた記事はこちら


考えてみれば、もともと何もなかったところから、より便利な家電やサービス、PC、携帯電話などの新たな機器を段階的に発明して普及させていったのが米国や日本、西欧諸国の経済と産業の発展でした。

これら先進国の消費者は、手書きがタイプライターになり、タイプライターがワープロになり、ワープロがPCになり、PCがタブレットになるという発展の段階を順番に経験してきました。

その後ろを追うNIESと呼ばれるシンガポール、香港、台湾、韓国などの次の経済発展の集団は、先進国の510年ぐらい後ろを追ったため、常に新たなサービスが少し遅れて入ってくるという、タイムマシン戦略がもっとも上手く当てはまる国でした。

これに対して、現在新興国と呼ばれる国では、先進国からきた先進的なサービスや製品と、その国独自の旧世界的なサービスや製品が混在する社会で人々は生活しています。

日々食べる糧を稼ぐのもやっとなリクシャー運転主が携帯電話を持っていたり、お手伝いとして雇われている移民の下手人がクーラーの効いている超高級ホテルのロビーで涼んだりと、先進国やNIESの国々ではなかったことが起きています。

つまり新旧の技術や文化や製品がモザイク状に存在しているのが今の新興国であり、過去の発展の常識はもはや当てはまりません。

日本の高度経済成長では、人々はテレビ、冷蔵庫、洗濯機を3種の神器として買い求めましたが、インドでiPhone3種の神器よりも先に購入することは、特殊なことではありません。

特に、新たなコミュニケーションを提供する携帯電話や、24時間のライフスタイルを可能にするコンビニ、手軽に持ち帰って食事ができるファーストフードなど、生活を便利にするサービスや製品については、年収5000ドルを超える中下所得者層の生活にも浸透しているように見えます。

こうした新たな発展のプロセスに目を向けて方程式化していくことが、新興国攻略の一つの糸口になるのではないでしょうか。