おきらく映画ファンクラブ

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青いカフタンの仕立て屋(2022・122分)

(フランス・モロッコ・ベルギー・デンマーク合作)

監督:マリヤム・トゥザニ

主演:ルブナ・アザバル、サーレフ・バクリ

★2022年カンヌ国際映画祭

国際映画批評家連盟賞受賞

 

モロッコ海沿いの町サレで

伝統衣装カフタンの仕立て屋を営む夫婦。

夫ハリムは腕のいい仕立て職人。

妻ミナは仕入れから接客まで

店を陰で支えている。

妻は病に侵され余命いくばくもない。

夫は人には言えない秘密を抱えている。

そんな夫婦の店に若い男ユーセフが

職人見習いとしてやってくる。

やがてカフタンづくりを通して

絆を深めた3人はそれぞれが

ある決断をする。

 

チラシやポスターの

青い生地に金色の刺繍で縁取られた

美しい民族衣装カフタンに魅せられて

急遽映画館に行った映画です。

 

カフタンとは結婚式や

フォーマルな場面で欠かせない

飾りボタンなどで華やかに

刺繍が施されたモロッコの民族衣装です。

この映画で初めて知りました。

日本でいえば着物

特に振袖や打掛のようなものですかね。

ミシンや機械化できるものも

あるかと思いますがハリムは

手刺繍にこだわりを持っています。

 

私はモロッコについて

ほとんど知識がありませんでした。

力士の多い国かと思ったら

それはモンゴルで頭一文字の大違いアセアセ

後は不朽の名作「カサブランカ」の

舞台という事くらいでしょうか?

モロッコは地中海と大西洋に面した国

スペインの向かい側でアルジェリアの隣

この映画の舞台、サレは

カサブランカの北、首都ラバトの近くです。

国民の多くはイスラム教スンニ派。

街中にはコーランが鳴り響き

ベッドのそばでは祈りをささげるミナ。

食卓には一時期、流行ったタジン鍋も見えます。

街の公衆浴場(ハマム)や

男たちがカフェで

ミントティーを飲んでいたりと

今のモロッコを知ることができます。

ただし、ガイド本「地球の歩き方」には

カフタンの話題は掲載されていなかったですね。

まだまだネットや書籍では

知らない世界が多々あり

映画を通じてその国の新たな

知識、情報を得られるのは嬉しいですね。

 

静かな時間の流れの中に

細やかな手刺繍のアップや

交差する男性同士の視線など

こんなに触覚と視覚を刺激された

作品は、ありません。

別の言い方をすれば

視線がエロチックな作品です。

 

伝統職人の世界って憧れますね。

信念をもって頑固に伝統を守る。

誰もが一目置く技術は

唯一無二の貴重な財産だと思います。

だからこそ妻ミナは

仕上がりを督促する客に

「夫は機械じゃないのよ」

と、言い放ち一蹴します。

そのセリフで分かる通りミナは

夫の仕事ぶりや誠実さを尊敬し

彼を心から愛しています。

 

この映画(監督)の凄いところは

短いセリフと視線や仕草だけで

登場人物の心情や生い立ち

モロッコの社会情勢まで描いたこと。

モロッコはイスラム教徒が多い国ですから

男女が一緒に歩いているだけでも

職務質問というか

役人から街中で声をかけられます。

戒律と法律で同性愛はタブーとされています。

 

ハリムがなぜ自分の

アイデンティティーに悩んでいるのか?

ミナは全ての事情を知って

夫を受け入れているのか?

若き職人見習いが

勇気を振り絞り告白するシーンなど

ほんと、明確に彼らの胸の内が

分かるので物語に嘘がないというか

納得するんですね。

 

私は女性なのでミナ目線で

物語を追っていました。

彼女の決断を病気ゆえか愛ゆえか

考えながら観ていました。

最終的に私が感じたのは

「母」や「家族」と

いう身内的な情でした。

 

ハリムのミナへの感情は

まぎれもなく夫婦の情愛だったと思います。

きっかけはカムフラージュなのか

彼女からの猛アプローチに負けたのか

どっちでもいいんですけど(笑)

長年かけて積み上げた時間が

夫婦という関係を築いたと思います。

 

ただし、子供がいなかった

できなかった、作らなかった

その背景は何となく理解できます。

偶然や結果や運命ではないでしょう。

ミナが子供を欲しがったり

子供を含めての家族を望んでいたら

ハリムは結婚しなかったかもしれないし

もしくは早くに離婚していたかもしれない。

しかしハリムの複雑な心情を理解し

彼を見守ることができたのは

ミナだけだったと思います。

 

この映画の最大のミステリー

最後の「夫婦の決断」ですが

これは観た人によって

解釈が変わると思います。

美しいとか、素晴らしいとか

そういう月並みな言葉で

表現したくないですね。

 

私がハリムのミナに対する思いを

夫婦の情愛と先ほど書いた理由は

もちろんクライマックスの

ハリムの決断です。

 

そんなんして、どないするの?

戒律破って大丈夫なの?

と下世話な心配をしたんですが

その疑問や不安も吹き飛ばすほど

強烈な愛がそこに見えたからです。