愛すべき映画たちのメソッド☆ -41ページ目

愛すべき映画たちのメソッド☆

映画感想家・心理カウンセラー・芸術家のNatsukiです☆

『映画にどんなに素晴らしいメッセージが含まれていようと
「娯楽性」がなければ作品としては失敗だ』/レオナルド・ディカプリオ



「俺たちは、お爺さん、ひいお爺さんたちが植えた木を切って、市場に出して、生活の糧にしている。そして、俺たちが今植えている小さな苗が大きくなって、それが切られる頃には俺たちは死んでいて、子や孫、さらにその先の世代の人間たちが切る事になる。だから俺らは木の成長も、お客さんが喜ぶ姿も見る事はできない仕事なんだよ。」



一期一会の出逢いは、ある日突然、誰にでも訪れる。

それは、店頭に置いてある何かの「パンフレット」だったり、苦楽を共にする「仲間」だったり、尊敬できる「先輩」だったり、心揺さぶられる「異性」だったり、触れる機会の無かった「大自然」だったり、今後の人生を大きく変える「仕事」だったりもする。

本作は、そんな数々の《出逢い》が気持ちの良いくらいに続々と訪れる日々を描いていて、思わず「GOOD JOB!」と叫びたくなる気持ちの良い作品。

『ウォーターボーイズ』『スウィングガールズ』『ハッピーフライト』の矢口史靖監督が、『舟を編む』『まほろ駅前シリーズ』などの人気作家「三浦しをん」のベストセラー小説『神去なあなあ日常』を映画化した青春ドラマ。

あるきっかけにより山奥の村で林業に従事することになった都会育ちの若者が、先輩の厳しい指導や危険と隣り合わせの過酷な林業の現場に悪戦苦闘しながら、村人たちや自然と触れ合い成長していく姿を《笑い》満載で描く。

大学受験に失敗し高校卒業後の進路も決まっていない勇気は、林業研修の募集パンフレットの表紙を飾る「可愛い女性」につられ軽い気持ちで1年間の林業研修プログラムに参加することにした。

ハンバーガーを食べながら列車を乗り継いで着いた先は、スマホが圏外になるほどの山奥にある三重県の神去村(かむさりむら) 。

山仕事に関しては天才的な才能を持つ粗野な先輩ヨキのしごき、虫やヘビやヒルの出現、動物の死体、味気ない食事、そして過酷な林業の現場に耐え切れず、逃げようと決意する勇気だったが・・・。



「あれが股をヒルにやられたヤツや~。」



初めはチャラくて軟弱な主人公を見事に成長させた染谷将太をはじめ、『モテキ』以来のエロ可愛さの長澤まさみ、『海猿』以上に仕事に熱く情に厚くエロかっこいい伊藤英明、矢口監督作常連の西田尚美など、キャストみんなが活き活きしている。

『悪の教典』再来の染谷vs伊藤の演技バトルも必見だし、伊藤英明が樹齢105年の杉を切る重要なシーンは、一本しか無い本物の木を「失敗は許されない本番一発勝負」で撮ったそうで、リアルな映像と緊張感がヒシヒシと伝わってくる。

そして、本作の雰囲気にピタリとハマったマイア・ヒラサワの主題歌はポジティブな雰囲気で、聴いているだけで元気をもらえる。

本作は、自分たちの人生の中だけでは完結しない仕事という知らざれる《林業》の世界を舞台にしつつ《生命》や《セックス》の尊さ、「人と人」や「人と仕事」や「人と自然」との繋がり方、後世に「生命」を繋げる生き方、《笑い》と《涙》を通して《情》の大切さ、そして《幸せとは》《生きがいとは》などを考えるキッカケを与えてもらえる。

エンドクレジットまで続く「ヒル」にまつわるギャグの数々は、監督が「マダニ」に刺されて奇跡的に無事だった実体験が元になっているそうだ。

元カノが所属する大学のスローライフ体験サークルの面々が訪ねて来る場面の「ハラハラ感」は異常で、予想通り現地の人と波乱の展開になるという《やっと馴染んできた田舎のコミュニティに都会の旧友が数名軽い気持ちでやって来て案の定もめて不貞腐れて帰る》系の名場面。

子供が神隠しに合い「おにぎり」の伏線が効いてくる場面のファンタジー感、それに続く子孫繁栄の願いも兼ねたクライマックスの「千年ヒノキ」のフンドシ祭での神聖な雰囲気からの大スペクタクルは、荒唐無稽、抱腹絶倒の喜劇感が全開で素晴らしい。



「背中に何か当たっているんですけど・・・。」



「コンドーム」「NYの女」「発情した犬」「先輩夫婦の夜の営み」「股間があたる2ケツ」「男根の奇祭」・・・など《性》に関するエロネタも意図的に散りばめられ《Circle of Life=生命の輪》というテーマとしても読み取れる。

そして、山の大男も涙する別れの場面は「ヤンキータオル」の意外で巧い伏線回収もあって号泣。

本作は、100年先の観客にも観てもらえるように、都会編以外はフィルムで撮影されたそうだ。

笑って泣いて歌って食べた、神去村での心揺さぶられる忘れ難い一年間の日々で、主人公と我々観客の価値観は大きく変化する。

まるで『ハート・ロッカー』の様なラストは《心に大きな穴がポッカリ感》が前例の無い程に押し寄せる。

一期一会の出逢いは、ある日突然やってくる。

本作との出逢いもその一つなのだろう。

これから都会の人混みとスピードに疲れた時は、神去村の日々を思い出して「なあなあ」精神で行こう。



「興味本位で来たのならさっさと帰ってくれない?そういうのが一番迷惑なのよ。」