
「待ちくたびれたぜ。」
人類の未来にとって、自然災害よりはるかに大きな脅威になるかもしれないと言われている人工知能「Artificial Intelligence=AI」。
今、人工知能の研究が活発化していて、これまでになく高度なAIが開発されている。
このままコンピュータが進歩すると「2045年」には人類の能力を超えてしまい、人工知能を搭載したスーパーコンピュータが地球を支配する可能性が高い。
それは「2045年問題」と呼ばれ、いま世界で最も議論されている深刻なテーマの一つである。
もしかすると『ターミネーター』で人類の半数が死滅した「審判の日」が、我々の目前に迫っているのかもしれないのだ。
2045年にコンピュータの性能やAIが人間の知能を超えるという予測は、コンピュータチップの性能が18ヶ月(1.5年)毎に2倍になると予測した「ムーアの法則」に基づいて計算されている。
AIが、更に自分よりも優秀な「AI」を開発し、更にその「AI」が、次のもっと優秀な「AI」を開発し・・・といった具合に「AI」が「AI」を連鎖的に作り続け、爆発的スピードでテクノロジーを「自己進化」させるという、人間の頭脳レベルではもはや予測不可能な未来なのだ。
若かりしジェームズ・キャメロン監督が夜な夜な見た「金属製骸骨」の悪夢から生まれた『ターミネーター』シリーズ。
一作目が作られた1984年の時代には絵空事だった「機械が人類を滅ぼす」という世界、当時はまだ夢のあったダークな空想世界が21世紀の今、現実の脅威として我々の前に立ちはだかっている。
IBMのスーパーコンピュータ「DeepBlue」が、チェスの世界チャンピオン「Garry Kasparov」を破った歴史的瞬間ですら、今では遠い昔の話のようだ。
現在のAIは、ブロック崩しのビデオゲームを見て、やり方を自ら学習し、何度も何度も繰り返しプレイする中でコツを掴み、数時間のうちに完全にマスターし、人間を超えるハイスコアを簡単に出す事ができるというレベルにまで進化している。
これだけでも最先端のAIが人間よりはるかに学習スピードが早く、人間の何倍も早く「進化」できることが判る。
そして今や、AIは原子力レベルの危険性も含んでいると言われ始めている。
『ターミネーター』で描かれたフィクションの世界に、現実が追いついたのだ。
テスラモーターズ会長兼CEOのイーロン・マスクは、AIは核兵器より危険であり、AIによって我々は「悪魔」を呼び出そうとしていて、近い将来『ターミネーター』のような事が起きるだろう、というコメントを発表。
ブラックホールの「特異点定理」を発表し世界的に名を知られたイギリスの理論物理学者スティーヴン・ホーキング博士は、AIの進化は病気・戦争・貧困の根絶に貢献する可能性がありながらも、AIが知力で人類を上回るようになり、「人類史上最悪の脅威」となって、最終的には科学技術による大惨事が「ほぼ確実に」起きると指摘し、AIの進化は「人類の終焉」を意味するだろうと人工知能開発に警鐘を鳴らした。
そして、AIによる人類支配を避けるには、地球以外の惑星にコロニー(居留地)を建設する必要があるとも述べている。
コンピュータ技術が今のペースで発達し続けると「ある地点」で人類の知能を超え、究極のAIが誕生する可能性は、ほぼ100%なのだ。
このような事から、AIが驚異的な速度で学習することに対して恐怖を覚える専門家が世界的に増えてきている。
その中で、2045年には人工知能が知識・知能の点で人間を超越し、科学技術の進歩を担う「シンギュラリティ=技術的特異点」が訪れるとする「2045年問題」に備えるべきだと訴える学者も現れ始めたのだ。
「シンギュラリティ=技術的特異点」とは、未来研究において、正確かつ信頼できる、人類の技術開発の歴史から推測され得る未来モデルの「限界点」を指し、コンピュータの知能が人間を超える現象、またはその瞬間を意味する言葉。
2045年に訪れると予測されている「シンギュラリティ=技術的特異点」の先にある未来は、人類にとって明るいのか、それとも『ターミネーター』そのままの暗黒の世界なのか。
昨今、世界的大企業の多くはAIをあらゆる分野に応用しようと、その進化・開発に積極的に取り組み、そのためAIの進化は年々加速している。
「Google」は、どこよりも真剣にAI開発に取り組んでいて、世界的権威レイ・カーツワイルが「究極のAI」の誕生を目指し試行錯誤している。
さらにGoogleは、人工知能ベンチャー企業DeepMind社を買収し「Google DeepMind」として研究開発を進め技術強化を行っている。
同様の企業の買収を次々と続けているGoogle。
その狙いは、「世界を覆う人工知能ネットワーク」なのである。
ちなみにDeepMindはロンドンに拠点を置くベンチャー企業で、2010年にDemis Hassabisらが創業、ブロック崩しのビデオゲームを見るだけで驚異的な速度でプレーの仕方を学習し、世界を驚かせたのがDeepMindである。
このように日進月歩でAI技術を進化させ続けているGoogleは、世界最先端の人工知能技術を有し、驚異的なスピードで学習する人工知能DeepMindを既に音声検索などで活用し、YouTubeや自動運転車などへAIを導入する事も視野に入れている。
Googleだけではなく、Facebook、MicroSoft、IBM、中国百度などがAIの研究に多額の資金を注ぎ、研究者を高額の給与で雇っていて、Amazonやトヨタもその後を追っている。
まるで『ターミネーター』シリーズで全世界規模の核戦争を誘発させ世界を破滅させたハイテク企業「サイバーダイン社」が生み出した戦略防衛コンピュータシステム「スカイネット」が誕生する目前の様な開発競争の加熱ぶりである。
しかし、これら最先端のAIにより、人間が行うより科学技術の進化が早まると期待されているのも事実。
一方、ホーキング博士など多数の科学者・実業家が、人間の遠隔操作を離れて自律判断で活動する「AI兵器」の開発禁止を訴える国連宛の書簡を公開した。
書簡にはホーキング博士をはじめ、アップル共同創業者のスティーブ・ウォズニアックといった著名人や、先端企業のリーダーら、さらに多数のロボット工学、情報工学研究者が署名している。
そして、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツも、人工知能が人間の知力を超えることに懸念を表明した。
公開書簡に署名した研究者たちは、AIの技術を軍事利用することで、今後数年のうちに『ターミネーター』の様な自律的に破壊行動を行う兵器が配備可能になると警告している。
AIやロボット工学を駆使すれば、戦場で生身の兵士が犠牲になる可能性を大きく減らせる一方で、それが却って戦争を引き起こしやすくする可能性もあるのだ。
しかも、AIを備えた兵器は核兵器などに比べて製作しやすく、大量生産によってコストを引き下げることもでき、システムの複製も容易なため、カラシニコフ自動小銃のように誰でも簡単に入手できるレベルにまで普及する可能性もあるから恐ろしい。
もしも、最先端のAI技術をテロリストが手に入れ、悪用したとしたら・・・。
技術者たちは、そうならないようAI兵器に対するコントロールが必要であり、開発競争になることが無いよう、自律行動可能な兵器の開発を自主的に禁止すべきだと訴えている。
2015年、国際平和の維持・経済や社会などに関する国際協力の実現などを主たる活動目的とする「国際連合=国連」の会議で「人工知能」などの未来のテクノロジーが生み出す脅威について問題提起された。
その会議では、人間をはるかに越えるような能力を持つスーパー人工知能に関して集中検討の場が設けられた。
その会議はジョージアの国連代表部と国連地域間犯罪司法研究所(UNICRI)が主催したもので、新たなテクノロジーによって生じるリスクについての議論が目的だった。
議論の対象には化学・生物・放射性物質・核(CBRN)兵器なども含まれている。
マサチューセッツ工科大学(MIT)の物理学者マックス・テグマークは2014年、ホーキング博士やフランク・ウィルチェック、スチュワート・ラッセルらと共に、人工知能に関する一般の理解が足りないと警告している。
「そのようなテクノロジーは、金融市場の裏を書いたり、人間の研究者より優れた発明をしたり、人間の指導者を越えて人心を操作したり、理解できないような武器を作ったりするかもしれない」とテグマークは述べた。
オックスフォード大学のFuture of Humanity Instituteのディレクターで哲学者ニック・ボストロムは、人工知能によって人類が絶滅したり、または生き延びたとしても壊滅的な状態になる可能性もあると示唆し、今後100年間で人間が何をするかは、人間の未来にとって自然災害よりはるかに大きな脅威だと警告している。
そして、スーパー人工知能は独自の技術的・根本的な難題を提起していて、特に「コントロール問題」が最重要で、スーパー人工知能を使ったシステムを作る前に、それを「コントロールする仕組み」を用意する必要があると語った。
AIの「コントロール問題」に関する根本的・技術的な課題解決を進める新たな研究分野の創設、その分野に対する数学やコンピュータサイエンスのトップ研究者の参画を呼びかけ、人工知能を開発する研究者と、その安全性を考える研究者の協力の必要性もある。
たった今も戦場では、自律飛行も可能なドローン(無人航空機/UAV)による爆撃はもはや当たり前の様に行われていて、ロシアでは拳銃を発砲する戦闘ロボットの開発も進められている。
地震や疫病、隕石の衝突などがあっても生き延びてきた人間が、今世紀、全く新しい脅威に直面する・・・。
『ウエストワールド』『2001年宇宙の旅』『トロン』『スター・ウォーズ』『エイリアン』『ナイトライダー』『スタートレック』『GALACTICA/ギャラクティカ』『ブレードランナー』『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』『アンドリュー/NDR114』『A.I.』『マトリックス』『アイ,ロボット』『ステルス』『ロボコップ』『イーグル・アイ』『her/世界でひとつの彼女』『サマーウォーズ』『月に囚われた男』『トランセンデンス』『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』『ベイマックス』『チャッピー』・・・など、数々の物語でAIの素晴らしさ、暴走したAIの恐ろしさが同時に描かれてきた。
その中でも『ターミネーター』シリーズは、進化し過ぎたAIの脅威を、最も早く、最も恐ろしく描き、全世界を震え上がらせたという点でAI映画の代表的作品だろう。
そして今、それが現実の世界で本当に起ころうとしている事から、『ターミネーター』は80年代の時点で恐ろしい未来を的確に予言していたことにもなる。
ジェームズ・キャメロンのアイデアやアドバイスをベースにしている本作『ターミネーター : 新起動/ジェニシス』は、シリーズ中最もエキサイティングで意表を突いたトリックと、心拍数が上がるフレッシュなアクション、そして、進み過ぎた科学への警告が込められている。
前半は、一作目の印象的な場面を「完全再現」し、プラス、ヒネリの効いたアレンジ、そして『T2』のスピリットまでもを絶妙に織り交ぜ、現代的に進化させている点も含め、シリーズ創始者キャメロン監督への愛とリスペクトに溢れている。
冒頭、一作目の若かりしシュワルツェネッガーをCGと実写を駆使して復活させ、秒単位のカット割り、画角などまで完全再現している。
これは『ターミネーター4(Terminator Salvation)』におけるクライマックスのサプライズをさらに超えている。
そして細かい部分では、1984年の世界に現れたターミネーターの足元の地面が時空移動の「球体空間」により丸く削られている。
これは、一作目では技術・予算的な理由で映像化できなかった「現象」で、本作の「再現場面」で遂に実現した。
意外なタイミングで登場し、意外な場所で退場する「T-1000」のあらゆる場面は『T2』に対する愛とオマージュが詰まっていて終始ニヤリとさせられる。
「T-1000」の鋭利な腕が目の前に飛び出したり、ユニバーサル・スタジオの『ターミネーター2 : 3-D』を思わせる「エンドスケルトン」の頭蓋骨が目前に迫る3D演出、ドラマ版『ターミネーター:サラ・コナークロニクルズ』的な後半の怒涛の急展開など、エンターテインメント、アトラクションとしてのアイデアとサービス精神も詰まっている。
そして、21世紀を生きている我々は『ジュラシック・ワールド』の脅威とは違った、現実にリンクしているリアルな「カタストロフィ」を目撃する。
心ゆくまで「暗黒未来ライド」に乗ってバーチャルワールドを「体感」した後は、恐るべきAI世界の余韻に浸りながら、現実の「来るべき未来」の難題を考えなければならない・・・。
「今のところ機械はほとんど意識を持たないという事実があり、機械が意識を持つような究極の発展を遂げたときの対策が全く存在しない。軟体動物にもほとんど意識はない。過去数百年で機械がいかに並外れた進化を遂げたか、それに対して動物や植物の進化がいかにゆっくりだったかを考えてみたまえ。」/サミュエル・バトラー
「I'll be back」