
「野球は家(ホーム)を出発して、家(ホーム)へと帰ってくる競技。だから好きなんです。」
韓国最弱のプロ野球チームであるベアーズに、起死回生のチャンスとなるルーキーが連れてこられる。
それは資金難に陥ったサーカスから雇い入れた《ゴリラ》だった。
ゴリラ使いの少女と共に初打席に立ったゴリラは、すさまじいパワーで豪速球を打ち返しバックスクリーンを粉砕する。
打率9割9分9厘を誇るスラッガーとなり《ミスターGO》という愛称が付けられ大スターになったゴリラを切り札に快進撃を続け、日本の球界(巨人と中日)をも巻き込むゴリラ強奪戦を引き起こすベアーズだが、ライバルチームにゴリラの投手《ZEROS》が現れる。
しかし、ゴリラ同士の決戦を前にミスターGOの膝が故障してしまう・・・。
本作は韓国のホ・ヨンマンの1986年の原作「第7球団」を『カンナさん大成功です!』のキム・ヨンファ監督が実写化したベースボールムービー。
キム監督は映画を制作する際に「映画には国籍があってはならない」という信念で、常に世界に通用するレベルを目指して全力で挑むそうだ。
本作は撮影前に「アジアでは絶対に作れないレベルのCG技術が必要」と言われていたが、全編フルCGゴリラのためだけに一からCG会社を設立して完成させた。
韓国では3Dで公開されたため、画面手前に何かが飛んでくるという場面が非常に多く、何度もドキッとさせられアトラクション感覚を味わえるが、日本では2Dバージョンしか観れない点だけが残念だ。
最下位のプロ野球チームが、何を血迷ったか大物ルーキーとしてサーカス出身の《ローランドゴリラ(身長170センチ、体重300キロ、握力500キロ)》を迎えたことから巻き起こる騒動の数々を笑いと涙でリアルに描いていく。
少女が少年を演じ話題となった『ミラクル7号』の中国人女優シュー・チャオ、『食客』のキム・ガンウら韓国の個性派たちが共演。
ゴリラ獲得をもくろむ日本のプロ野球チーム「中日ドラゴンズ」のオーナー役で、日本のオダギリジョーも出演している。
本作は「そんなバカな」という奇想天外な設定のエンターテインメント作品だが、ゴリラは両手足を使って100メートルを11秒で走りきる能力があり、様々な方法でコミュニケーションを図ることもでき、指は短いため変化球を投げることは難しいが、早い球を投げる速球派投手にはなれるそうだ。
その特徴やスペックだけを見ると十分訓練を行えば試合を行うことは可能で、プロ野球選手としてやっていける実力がある。
過去には、アメリカの野球チームでチンパンジーが三塁手としてプレイしたという記録が実際にあり、その実話を基にした『モンキー・リーグ/史上最強のルーキー登場』という映画も製作されている。
つまり本作を「馬鹿げたフィクション」だと軽く見てはもったいない。
ピーター・ジャクソン版『キング・コング』に引けを取らない最先端のデジタル技術は、4年にわたる技術開発と400人以上のスタッフの努力によって生み出された。
VFXを駆使して創造されたゴリラの毛並みや表情のリアルな質感は本当に素晴らしく、ゴリラと少女の絆をめぐる熱いドラマにも号泣。
まず、この企画書が通った韓国映画界の懐の深さに驚きを隠せないし、羨ましい。
「野球は家(ホーム)を出発して、家(ホーム)へと帰ってくる」というセリフに象徴される様に、本作のテーマは《ホーム=家族》だ。
生まれた時からサーカス団でゴリラと生活を共にしている少女のドキュメンタリー風映像から始まり、借金返済に追われるサーカス団と団員の子供達=家族を救うために、団長である少女がゴリラと共にホームから旅立ち、一旗揚げてホームに帰ってくるという、《帰れる場所=家》の大切さや《家族の絆》の深さを描いている。
クライマックスのゴリラvsゴリラの凄まじさや、カートを追うゴリラとの迫力のチェイス展開など、手に汗にぎる場面のオンパレードで、ラストのカタルシスなど含めエンターテインメント作品として正攻法で素晴らしい。
笑えて燃えて泣ける野球映画として『メジャーリーグ』『Mr.3000』に続き本作も、人々のハートに真っ直ぐ飛んでいく気持ちの良い満塁ホームランを打った。
「サーカスを立て直すため・・・あそこは私たちの家(ホーム)なんです。」