歩いても歩いても | 愛すべき映画たちのメソッド☆

愛すべき映画たちのメソッド☆

映画感想家・心理カウンセラー・芸術家のNatsukiです☆

『映画にどんなに素晴らしいメッセージが含まれていようと
「娯楽性」がなければ作品としては失敗だ』/レオナルド・ディカプリオ



「この家は、俺が働いて建てたんだぞ。なのにお前、何で〈お婆ちゃんち〉なんだよ。」


今や世界的に評価が高い是枝裕和の監督作品。

是枝監督の『そして父になる』で福山雅治が演じた「良多」というファザコンの「父親」、それと同名である「良多」が本作の主人公であり、同じくファザコンの「父親」という設定で興味深い。

嫁と子供を連れて「実家に帰省した一泊二日のありきたりな風景」だけの話なのだが、全編、淡々としているのに何故だか全く目が離せない程の緊張感が漂っている。

ほぼ実家の屋内だけで展開する「会話劇」で、日本的で穏やかな雰囲気に包まれているのに、何故だか「居心地の良さ」と「居心地の悪さ」が絶妙なバランスで伝わってくる。

些細な伏線とその回収の巧さもある上で「実家帰省あるある」も満載でとてもリアルだし、つかず離れずな関係の家族たちがふとした瞬間に垣間見せる小さな「表と裏」が浮かび上がる。

『奇跡』などを筆頭に是枝作品の大きな特徴である「自然で活き活きとした子供の描写」や「眩しいくらいに美しい風景」や「書きセリフでは有り得ない程リアルな会話」などは本作でもずば抜けて素晴らしい。

「無愛想で厳格だけど孫には優しい父」「明るくて温かい人柄だけど無神経な母」「笑顔だが緊張感と気まずさで息苦しそうな妻」「大人たちの緊張感を実は感じ取っている子供たち」「少しずつ匂わされていく兄の死」「誰もが抱える小さな秘密」・・・特に事件やトラブルも発生しない、笑いと涙に包まれた「実家に帰省した一泊二日のありきたりな風景」だけの話なのに、何気なく過ぎていく時間の中、家族の「言葉」と「心情」が見え隠れし、何だか落ち着かない気分が延々と続く。

相手の両親と打ち解ける前、配偶者の実家に滞在する時の「言いたい事を言えない感」「何も断れない感」「何気ない言葉に悪意を感じてしまう感」「期待するほど裏切られる感」「孤立感」・・・などなど、誰でも一度や二度は経験のある感じ。

これは、相手の言動を深読みし過ぎて疑心暗鬼になってしまいそうな、一触即発の心理戦と言えば大袈裟かもしれないが「アウェイ」の者にとってはそれほどの出来事だったりする。

しかも「ホーム」側の人間はだいたいそれに気付いていない。

父と息子の確執、母と娘家族の同居問題、嫁と姑の溝、連れ子がいる女性と結婚した息子への嫌味、過去の問題を引きずっている両親、それぞれのコンプレックス、そして実は怖い「タイトルの意味」まで、あらゆる「家族の姿」が詰まった「ホームドラマ」の集大成。

そして、この先も親子という「近くて遠い存在」の関係性は何世代も続くし、親子の「心」の距離は、歩いても歩いても永遠に縮まらないのだろう・・・。


「あぁ、いっつもこうなんだ。ちょっと間に合わないんだ。」