モーム「サミング・アップ」から | さかえの読書日記

さかえの読書日記

琴線に触れたことを残す備忘録です。

「イギリス人は政治好きな国民であるから、政治が最大の関心事であるようなパーティには私もしばしば招待された。そこで出会った著名な政治家に際立った才能を見出すことはできなかった。国の政治を担当するには並外れた知性など必要ないのかもしれないと、私はいささか性急な判断を下したものだ。その後、私は様々な国で高い地位についた政治家の何人もと知り合ったが、そのたびに彼らの知性が凡庸であるように思え、不思議でならなかった。日常のありふれた事柄を知らないし、鋭敏な知力とか旺盛な想像力とかを彼らに見出すのは稀であった。ああいう輝かしい地位につけたのは弁舌の才のせいかな、と考えたこともあった。というのは、民主国家においては一般大衆の耳を捕らえなければ高位に昇ることは不可能だからである。そして弁舌の才というものが思考力を伴わないというのは、誰もが知るところである。しかし、わたしには利巧とは思えない政治家がまあまあ成功裡に国政を執り行っているのを見たので、自分の考えが誤りだと思わざるをえなかった。つまり、国家の治めるには独特の才能が必要であるが、この才能は一般的な能力の有無とは関係がなく存在しうるものであるに違いないのだ。同じように、巨万の富をきづき、巨大企業を繫栄へと導いた実業家が、自分の仕事とは無関係の事柄については一般常識さえ持たぬかに見える例も多数見てきた。」