ぬいぐるみ好き、特にぬいぐるみを手作りされている方などは親しみを覚えるのではないか。ハンドメイドのうさぎのぬいぐるみがパリのリュクサンブール公園で迷子に。なんとも愛らしい一冊。

『うさぎのララ・ローズ』

うさぎのララ・ローズ (世界の絵本(新))

Amazon（アマゾン）

市川里美：作　講談社（2005年）

舞台はパリ。うさぎのぬいぐるみのララ・ローズは、クレモンティーヌの背中に揺られてリュクサンブール公園へ。おばあちゃんに連れられて弟といっしょに遊びに来たクレモンティーヌは、ララ・ローズを背中に背負ったままジャングルジムや回転木馬で遊ぶが、今度はポニーに乗りに行こうと向かった矢先にララ・ローズを落としてしまう。でも気づかずそのまま駆け出してしまうクレモンティーヌ。残されたララ・ローズはそれから次々と公園の人々の手を渡り――

巻頭で作者の市川さんは、わたしが絵を描きはじめた街、パリに捧ぐ　としており、さらに巻末のプロフィール写真ではそのララ・ローズとともに写っている。ララ・ローズは実際に市川さんの大切なぬいぐるみなのだ。その自身の宝物から生まれた物語であり、その意味では『とんでいきたいなあ』にも通じる。

表紙を見てもわかるが、いかにも手作り感のあるぬいぐるみ。きっと市川さんご自身で作られたぬいぐるみなのだろう。作者の惜しみない愛着を感じる。

そのララ・ローズが置き去りからクレモンティーヌと再会するまでの一部始終を描いた物語だが、作中ララ・ローズが階段から落っこちたり池に投げ落とされたりといった場面で、舞台がリュクサンブール公園ということもあってか天使などの石像が目につく。その石像たちの目に注目してほしい。偶然ではないだろう、さり気なくその目がまるで、彼女を見守るようにララ・ローズに向けられているのだ。ちょっとしたことだが、こんなところにも作者の細やかな愛情を感じる。

手作りのぬいぐるみが愛らしいパリが舞台の一冊