お父さんに会うと泣きながら恋人に伝えたら「なんでお父さんと会うのに悲しいん?」と言われて、見てる世界が全然違うんだと思った。友達として好きで恋愛感情を持つけど恋人としてはさほど好きじゃなかった、を毎回繰り返す。名古屋駅のビル群の隙間からは飛行機が見えた。飛行機雲は好きだけど飛行場は興味ない。なんでもかんでも、遠くにあるものばかり安心感を覚える。


 「彩葉は俺がいないと本当にダメだな」って、ついに歴代の全恋人に言われて、また人間関係をこんな風にしてしまったと思った。男女問わず距離が近くなった人を依存させてしまう。自分の何がそうさせているか分からないからなおさら自分のこの部分が大嫌いだ。お腹いっぱいのときに「これも食べていいよ」としか言えない恋人のプライドを黙って食む。好きになってしまってごめん。無責任な気持ちを何度も口に押し込みながら。


 過干渉で育ったから、決まり事が多いのを苦痛だと思わなかった。毎日かならず20時に電話をする。決まった時間に決まったメッセージを送る。それで相手が安心するならそうする。お酒が弱いから人前でお酒を飲むのも禁止されていた。ぼーっとジンジャーエールを持って眺めてる打ち上げの端っこ。つまんないと思うのは自分がつまんないから。気付いちゃいけない気持ちに気付きそうで気持ち悪い。

 帰る時間が迫っていたので急いでジンジャーエールを流し込んだ。しゅわしゅわと心臓を駆け抜ける初恋の速度。メンバーと初めて会った日に飲んだのもジンジャーエールだった。メンバーはケンジくんといって、お父さんと同じ名前で。メッセージに急かされてバタバタと地上への階段を上る。しんと張り詰める地上の空気。いつも何がこんなに切ないんだっけ。ぜーぜーと胸が苦しくなるのは生まれつき喘息だから。お父さんの気持ちちょっとでも分かるなんて思ってもなかった。でも浮気は変わらずキモいって思う。吐いた息はもう白くなってたよ。また街に雪が降る。小走りで寺田町駅まで。