一人だけにはもったいない広さの控室に

鞄とコートを置いて

リハーサルのためにステージ裾に向かった

 

大空さんが「華麗なる大ポロネーズ」を

華麗に弾いていた

 

調律師の塩見さんが

テーブルにプログラムを置いて

曲目解説を読みながら

座ってじーっと聴いておられた

 

(塩見さんは本当に勉強家だなあ!)

 

「塩見さん!

今日はよろしくお願いします!」

 

「あーっ!

西山先生!

今日はおめでとうございます!

すごく楽しみにしていました!

こちらこそよろしくお願いします!」

 

亀岡さんもいて

アナウンスを担当してくれる

愛大放送部の西林君を紹介された

 

「西山先生がバッハを弾かれるのは

ピヒト先生の影響でしょうか?」

 

「えっ!

ピヒト先生を知ってるの?」

 

「はい!

前もって調べてきました」

 

「そうかぁ!

アナウンスするってことは

そこまで下調べをするものなんだ!

エライなあ!」

 
ピヒト=アクセンフェルト教授は
バッハの平均律や
ベートーヴェンピアノソナタの
全曲演奏をするなど
ドイツ国内外で有名なピアニストであるが
チェンバロやオルガンも得意としていた
 
オルガンはシュバイツァー博士に習ったらしい
 
何でも器用にこなす彼女は
チェンバリストが少なかった当時
重宝されてチェンバロを弾かされているうちに
ピアノよりチェンバロの方で有名になり
たくさんのレコードを残している

 

大空さんの演奏は最後の

クライマックスに近づいていた

 

「上手いよねぇ!

こんな難しい曲を良く弾けるよねぇ!」

 

「本当にお上手ですよね!」

 

「華麗なる大ポロネーズ」の音が鳴り終わった

 

僕のリハーサル時間の1時になったので

ステージへと入っていった

 
ステージから見た客席に圧倒された
 
 
スタインウェイのフルコンサートピアノが
デーンと置かれて
威容を放っていた
 
 
(スタインウェイのフルコンを弾くのは
久しぶりだなぁ・・・・・)

 

僕は椅子に腰かけた

 

(あれっ! 高さがちょうどいい!

これだと本番で椅子の調整は

必要ないから助かるー!)

 

(鍵盤の重さはどうなんだろうな?)

 

僕は最近ウォーミングアップのために

ショパンの「6度のエチュード」の

右手だけを両手ユニゾンで弾くやり方をしている

 

いつものように鍵盤に指を置いて

6度のエチュード」のユニゾンを弾いてみた

 

(んーん! 若干鍵盤が重たいなぁ!

まあ自宅のピアノが軽すぎるんだけど・・・・・)

 

30年近く使っていた自宅のピアノは

昨年の秋に新しいハンマーに替えたばかりだった

 

「先生―っ!

こんなピアノは初めて見ました!

ハンマーのフェルトが擦り切れて

中の木が見えてますよ!

これっ!

見てくださいよ!」

 

修理屋さんが驚いた様子で言った

 

 

(確かに弾き込みまくったものなあ!)

 

そのあと塩見さんに調整してもらった時に

我が家の鍵盤の重さは

スタインウェイと同じ重さであると

計量器を使って説明してもらっていた

 

でも確かに今日のピアノは

重いというかタッチが鈍くて

指に吸い付いてこない

 

あるいはフルコンサートピアノと

自宅のセミコンサートピアノの違いで

重さではなく感覚的なものなのかと思った

 

1時間のリハーサルで

このピアノと馴染まなくてはならないんだ!)

 

僕はひたすら弾いて弾いて弾きまくった

 

響きの良いホールで

自宅では決して味わえない

心地よい残響の音を聴きながら

いい気持ちで弾き続けた

 

(今日の調子は決して悪くない・・・・!)