痴漢にあうのは、めずらしくない。
だから、いつも、小さな針を常備して電車に乗る。
手が伸びてきたら、ちくんと刺す。懲りない人には、もっと強く。
手が、あたしを触ったとき、だから、あたしは、いつものように定期入れに入れてある針をポケットの中で捜した。触られることに感じるのは、いつも、いいようのない嫌悪とやりきれなさ、だけだった。
そう、いつもは。
針を探し当てたあたしの指が、そのとき、止まった。
さわってくる手。
最初、うしろから。
服の上から、すっと、あたしの上をなぞったその感触。
それは、夢の中の手と、似ていた。
そのとたん、ポケットの中で、あたしの手が止まった。
服の上から触られる感触は不思議。
一枚の布が、まるで、潤滑油のように、その手を滑らかにする。
あたしは、目をつむった。
下を向く。
これは、夢の続きなんだ。
どこからか沸いてくる欲望が、羞恥心に勝った。重たいゼリーのような電車のなかの空気が、あたしの理性も固めてしまったんだと、言い訳をしてみる。
そんな言い訳も、瞬く間に、消えるのだけど。
あたしは、手に、夢中になる。
服の上から、臀部をすべり、手はゆっくりと、太股を往復した。強くなく、弱くなく。
性的な触り方、というのがあるとしたら、それは、まさにそれ。
意識が、どんどんと麻痺していく。
そして、その手は、前に回り、ジッパーを下げた。
じじじ。
音が、周りに漏れないか、さすがに気になる。電車の音が、それを掻き消してくれていた。
中に忍び込んだ手は、パンティの上から、下腹部をゆっくり包む。
冷たい手。薄い布一枚を通して、その体温が伝わる。
と、すっと、その手が離れる。
・・・え?
心の中で、悲鳴が漏れる。それでは、夢の中と一緒じゃないか。
あたしを焦らす手。
もう、あたしの水は、温かく次々とあふれ出しているのに。
そう、さっきから、あたしは、それを感じていた。
手は、コートの中を通って、わき腹をくすぐり、ゆっくりと、上に上っていった。
まるで、後ろから抱きかかえらる格好で、あたしは、身を預けるかたちになる。満員電車が、それを不自然には見せない。
コートの中のジャケットはシングルで、中に薄いブラウスを一枚。手は、容易く第3ボタンを開けた。
そして、すっと中に手を入れてくる。
その大胆さに、少し慌てる。
大丈夫、誰も気付いてない。前の20歳前後の男は、下を向いて携帯に夢中。右手の女子高生二人組みは、満員電車に揺られながら、ぺちゃくちゃとおしゃべりをしている。
それでも、たくさんの人の前で犯されているような錯覚。
犯されている?
いや、欲している。あたしは。触って欲しくて、身体をよじっている。
指がブラジャーの中に忍び込み、固くなっている乳首を弾いた。
「あっ」
小さな悲鳴が漏れる。吐息とともに。
電車の揺れだけでない揺れがあたしを襲う。
半分、その手の持ち主に寄りかかるような姿勢になってしまう。立っているのがやっとだった。
手は、また、ゆっくりと下に降りていった。
あたしは、足を自分から、開いた。
さっきと同じ場所に指がたどりつき、割れ目の線に沿ってゆっくりと動いたとき、
くちゅっと音がもれた気がした。
溢れ出た水は、もう、たっぷりと、滴り落ちそうだったのだ。
あたしは、きつく目を閉じて、その指の動きだけに、集中した。
吐息が、荒くなるのを、どうやって押さえていいのか、わからなくなる。
熱いその場所の快感は、もう、それ以上の高まりだけを欲していた。
もっと。
もっと。
頭の中が、白くなる。
ぐっと、指が中に入ろうとしたとき、あたしは、指が中に入りやすいように、きっと導いていた。
その瞬間の幸せに酔うために。
とたん。
電車が止まり、手が、すっと離れた。
手は、急いで、あたしのコートの前あわせを合わせてくれると、優しくあたしから離れた。
いや。
心の中で、あたしが叫んでいる。
もっと。
すがるような気持ちで、手の持ち主に目をやると。
そこにいたのは、
あの、視線の持ち主だった。
視線がぶつかり、その瞬間、彼は、人ごみの中に消えていった。