ちょっと下火にはなりましたが、芸能人のスキャンダル報道には閉口します。不倫は犯罪ではないし、自分は死にきれない心中未遂だって一家族内のできごとです。私が知らない俳優の薬物事件だって、あれは警察が庶民への見せしめにしようと大げさにしているのだと思っています。そんな事件でメディアが朝から大騒ぎするのには、本当にあきれ果てます。

 

 庶民の中にはそんな報道を喜ぶ人々もいるでしょう。そういう人々には、自分も不倫したいができない、あの人気者が痛い目に遭うのが痛快、そんな卑しい根性が潜んでいるように思います。いずれにしてもあのような事物がニュースの筆頭を飾るのは、民主主義国、いや先進国としては恥ずかしいと私は思います。

 

 ところで、世界を震撼させたウクライナ戦争も1年をはるかに経過しましたが、TVの地上波ではあまり扱われなくなりました。今、ウクライナを加えるかどうかでNATOの会議が開かれようとしています。春から始まったウクライナの反転攻勢も頓挫しつつあるように見えます。

 よく考えると、ロシア(旧ソ連)はどちらかというと、外敵に攻められたときにこそ真の力を発揮する国(民族)だと思います。ナポレオン戦争も第二次世界大戦もそうでした。今回、最初の1年はウクライナを攻めきれなかったものの、守りに入ったこれからは粘り強さを発揮しそうです。つまり、私は軍事の素人ですが、今回の戦争はこのままだと相当な長期戦が避けられないと思っています

 

 そこで、ようやくですが小泉悠氏「ウクライナ戦争」(ちくま新書)を読みました。小泉氏はこう述べます。

 

「・・・第二次ロシア・ウクライナ戦争は21世紀のテクノロジーを用いたハイテク独ソ戦とでも呼ぶべきであり、根本的な「性質」の方はあまり変化していないのではないか」

 

 確かに、国際報道(YouTubeも含め)を見るとウクライナの反転攻勢が進む現時点、陸上では第一次世界大戦さながらの塹壕戦が繰り広げられています。映像を見ればまさに100年前にタイムスリップしたかのようです。

 そして小泉氏はこう断言します。

「・・・この戦争は極めて古典的な様相を呈する「古い戦争」である・・・」 

 私も全く同感です。21世紀になっても、戦争、特に地上戦は地を這うような悲惨な戦闘が行われているのです

 

 ウクライナ戦争がこのような状況なのに、この国の政治家は現代戦の実情を理解しているようには思えません。声高に“台湾有事”とか“北朝鮮のミサイル開発”とか叫ぶ人々には、次の瞬間、自分に弾丸が当たることも、何の前触れもなく砲弾の炸裂によって隣の戦友が消えてなくなることも想像できていないと思います。

 

 また、本書で小泉氏はロシアの失敗についてこう指摘しています。つまり、プーチンがこの戦争を「特別軍事作戦」と位置付けたがゆえに、ロシア国民を動員できないからだと。ウクライナの抵抗のために損耗した兵力を徴兵によって補充したいのだけれど、「戦争」ではないので大っぴらに徴兵できない。ですから“ワグネル”が必要になった・・・まさに納得です。

 

 であれば、かの“台湾有事”とやらで米中の本格的な戦争になった場合、この国はどうするのでしょうか? 仮に自衛隊が参戦したとしましょう。戦争ならば“徴兵”できるのでしょうか? 現状ではできません。憲法に規定されていないからです。岸田政権は勢い込んで防衛予算を増やそうとしていますが、お金があって、それで兵器・弾薬を買ってもそれを使う人間がいません。では憲法を改正して“徴兵”を制度化すればいいのでしょうか? この国の若者の皆さんは、あの“BTS”のメンバーのように、自分が徴兵されることを容認するのでしょうか? それでなくても少子化の進行で人手不足なこの国、徴兵が制度された時、経済が回り社会活動は維持できるのでしょうか? よく考えてみるべきです。まさに自分事として・・・。

 

 今、沖縄県の島々には自衛隊の基地が続々と建設されています。しかし、再度指摘しますが自衛隊員の数は足りていません。ハイテク兵器は値段が高いので数を揃える、予備を備蓄するのは容易ではありません。またそれらのハイテク兵器を扱うには長い訓練が必要です。今のこの国は戦争を遂行するに必要な人もモノも、そして人を育てる時間も足りていません。もし本当に台湾を舞台に米中の戦争が起きるなら、沖縄県の島々はあの太平洋戦争時のように捨て石になることは避けられないでしょう

 

 今、政治家、いや私たちが真剣に考えなければならないことは、安倍晋三を悼むことでも大阪万博に浮かれることでもありません。ましてや、パリ・オリンピックなど論外です。大谷翔平選手の活躍には感服しますが、そんなエンタメニュースは隅っこに置いときましょう。

 

 世界には今でも(ウクライナ戦争のように)、そして過去にも悲惨な戦争があって、命が不必要に失われてきました。何が本当に大事なのか、よくよく見通す目を持って現実を考え続けることが必要でしょう。

 

・・・きょうのBGMは“Al Jarreau”の「BREAKIN‘ AWAY」、人間の声とはなんとスゴイものなのでしょうね。