井手英策著『財政から読みとく日本社会』(岩波ジュニア新書)を読了した。

 

中高生、大学生向けに書かれたものだが、社会人が読んでも十分に役立つだろう。「公共の経済」である「財政」のあり方について、その歴史的な成り立ちを概観し、今日の社会課題を踏まえて見直しを訴えた良書である。

 

OECD諸国と比べて財政支出や公務員の数が少ないなど「小さい政府」である日本。税により社会保障を手厚くするよりも、勤労の奨励とともに所得税減税を行い、貯蓄など個人の自己責任での対応を求める「勤労国家」として発展してきた。財政支出も社会インフラを整備すると同時に雇用を確保する公共事業が中心であった。

 

しかし、時代は変わった。

日本が志向した「勤労国家」は、経済成長を前提としたものだ。長引く不況と、進む非正規雇用化により、所得は減少し、貯蓄もままならなくなり、格差も拡大した。日本では教育関係の支出が家計に占める割合が高く、子どもを授かるかどうかにも影響が出ている。教育格差は、所得格差にもつながる。

他方、少子高齢化が進展し社会保障関係費も増大。国民の間では将来に対する不安感が高まってきた。

無駄を省くため公共事業費を削減し、その費用を社会保障にあててきたが、地方での雇用の減少、ひいては税収減や農村等でのコミュニティ形成にも影響が出てきた。

 

著者の井手さんは、こうした現状を踏まえ、読者の若者世代に「財政」のあり方について問いかけていく。

医療や介護、保育、教育など誰しもに共通するサービスについて「だれもが受益者」として将来不安を払拭することを提案する。定額給付を行い、低所得層にもある程度の負担を求める一方、高所得層にはより大きな負担を求めていき、格差を縮小するモデルを示す。

井手さんは、「『だれもが受益者』という財政戦略は、必ず増税をともなう」が、「私たちの必要がなにであり、そのためにいくらの財源が必要かということを正面から議論することはとても大切」と強調する。この点は大いに共感する。

さらに、「税をはらい受益者の範囲をひろげるという戦略は、ようするに、社会全体で貯金をし、さまざまな不安から人間をときはなつということ」「希望と不安をわかちあい、自分の幸福と他者の幸福を調和させるための挑戦」という著者の姿勢にも賛同したい。

 

最後に2点だけ指摘しておきたい。

1点は、住まいの保障への言及が無い(と思われる)こと。

もう1点は、介護保険の説明で間違いがあることだ。本書71ページ5~6行目、「日本では介護も社会保険で提供されますが、サービスを受けられるのは六五歳以上の高齢者だけです。」とあるが、これは事実と異なる。

介護保険は高齢者を対象の中心としているが、40歳~64歳も第2号被保険者として保険料を負担するとともに、心身の病的加齢現象との医学的関係があると考えられる特定疾病に該当すれば、サービスを利用できる。