遠く遠く どこまでも -2ページ目

LA 一人きり

緑の芝生、なだらかな坂の両側に
大きなガレージを備えた住宅が立ち並ぶ
スプリンクラーの水が目映く、子供達が
原色の三輪車で遊び、郵便ポストがあって
大きな犬が軒先で昼寝
映画で見た様な景色が
Yの車の窓から見えていた

アメリカだ

そうこうするうちに家に到着
でかいスーツケースを下ろすと
Yがまた車で近所のマックへランチに連れて行ってくれた

本場アメリカのマックだぁ!チーズバーガーが99セントだぁ!
スマイルも0セントだぁ!
今思うと大笑いだが、マックにすら
感動していたロスの初日
目にする何もかも
全てが新鮮だった

短いランチが終わり家に戻ると

いきなり合鍵を渡され
Yはさっさとウエイトレスの仕事に出かけてしまうのだ

到着初日の午後から一人っきりで留守番.......

一人残されたボク
でも........

プールはないけど
芝生が生えた裏庭、芝刈り機、スプリンクラー
バーベキューセット そして小さくてうるさいが
まぁ犬もいる
部屋とバスルームを専用で貸してくれて
冷蔵庫のものは自由
大音量でTVも見れるし音楽も聴けるし
なんと言ってもタバコが吸える
Yもスモーカーだった

一人でのんびり誰にもじゃまされない

日本で実家住まいだったボクには天国では?
元来、ホーミーな雰囲気は苦手なハズでは??
子供が本当に好き?
犬なんて飼った事すらないでは?

実はこのほったらかしの
子供のいない若夫婦の家がボクには
正解だったのではとこの時理解した。

きっと絵に描いた様な
タバコも吸えないファミリーがステイ先だったら
2日目にはもう嫌気がさしていただろう
ボクの性格からして

初めての飛行機 
長旅に疲れて、ソファーでうとうとしていると
ガレージに荷台のある小型トラックが戻って来た
もうすっかり夕暮れだった

主のJとの初対面
HOW DO YOU DO?
ボク以上にJは緊張していた感じだったが
年もそう離れていない事もあり
会話はちぐはぐで
まったくもっておぼつかなかったが
すぐにボクたちは打ち解けた

そんな気がした
 
ファック!シット!クール!メン!
Jは会話の端々に上記の単語を多用する
20代のブルーカラーの青年だったが
ボクのホストファミリーとしては
ベストな人選だったと今でも思う。

一風変わったロスでのホームステイがスタートした。


LA えっ!!?

初めての海外(初めての飛行機でもあった)
ロス郊外の住宅街でのホームスティ

アメリカンなファミリー
両親、子供たち、大きな犬
庭にはプールとバーベキューセット
を勝手に渡米前に描いていたのだが........

出発の成田空港でホストファミリーの変更を告げられた

ボーリング場のパーキング
バスから降りたボクを迎えにきていたのは
化粧が無駄にケバい
いかにもアメリカに暮らすアジア女性
コリアンのYだった。

しかも確かあの頃彼女はまだ25.6歳ってところ
東洋の島国から来た学生を待つ
アメリカンなファミリー達の集団の中で
あきらかに彼女は浮いていた

夜になって対面する旦那のJは
ポールマッカートニーに少し似た白人だったけれど
これまた20代後半
ボクは21歳

一緒にツアーで来たみんなの家は
ボクを除いて典型的な中流階級のアメリカンなファミリーだった

共働きの子供のいない若夫婦
コリアンのYは日本食レストランのウエイトレス
旦那のJは肉体労働系
キャンキャンうるさい小さな犬



勝手に描いたロスのホームスティは
大きく軌道修正されていた

AMERICA

ボクの初めての海外はロスだった。
まだパスポートの表紙が赤い頃。
大学3年生の夏休み、21歳。
大学が募集していた短期交換語学留学の選抜に
みごとに落ち...。
バイトして2週間のホームスティプログラムに参加した、一人で。

行き先はロス。
どーしてもロスに行きたかった。

その頃のボクが大好きだった浜省のJ BOY
ってアルバムの中の「AMERICA」という唄。

ロスからサンフランシスコへ続くハイウェイを
俺たちヒッチハイクした1984
あの娘はダンサーで
ニューヨークで踊る日を夢見てた
オレはただTOKYOから逃れたかった

WE WERE LOOKIN' FOR AMERICA
映画の中のアメリカンドリーム
今もAMERICA
あの娘の輝いてた瞳 思い出す

ロスの空港から郊外のスティ先へ送られるバス
フリーウェイ、ビルボード、青い空
窓の外を見ながらウォークマンで「AMERICA」を聴き
一人でちょっと涙した
たぶん「うれし涙」ってヤツだったと思う

いかにも浜省的な唄で
今のボクには
もう抵抗を感じる世界観ではあるが
たまにあの唄のイントロを聴くだけで
20年経った今でも
あの時バスの窓から見えた景色を思い出す事ができる。

1988年
世はバブル末期
これがボクの「旅」の始まりだった。
きっかけは「AMERICA」