由依side
カーテンの隙間から、やわらかい光が差し込んでいた。
目覚ましをかけない朝は、時間の感覚が少し曖昧になる。
私は先に目を覚まして、まだ灯りの消えた暗い部屋でしばらく天井を見ていた。
休日なのに、目が覚めた瞬間から頭の中で仕事のことが忙しなく回り始める。最近ずっと、出口の見えないところに立っている気がしていた。
隣で、理佐が寝返りを打つ。
その気配が近くにあるだけで、ひとりじゃないことを思い出す。
「……起きてる?」
まだ眠そうな声。
「うん」
それだけ返すと、理佐は目を開けてゆっくりこちらを向いた。
それからなにも言わずに、あたたかくて力の抜けた手が私の頭をやさしく撫でた。
そのままぎゅっと抱き寄せられる。
「おはよう」
「……おはよう」
「コーヒー淹れるね。まだ寝てていいよ」
理佐はそう言って、ゆっくりベッドを抜け出した。
足音が遠ざかって、キッチンのほうからコーヒーを淹れる音が聞こえてくる。
私はもう一度、枕に頬を押しつけた。
しばらくするとコーヒーの香りが部屋まで流れてくる。
「できたよ」
リビングに行くと、テーブルの上にマグカップが2つ並んでいた。
付き合って最初の記念日に、二人で雑貨屋を何軒も回って選んだ白いマグカップ。
「ありがとう」
ソファに座って、マグカップを両手で包む。
指先から伝わる熱が、ゆっくり身体に広がっていく。
理佐が隣に座る。
近いけど、近すぎない距離が私の言葉を待ってくれている気がした。
「最近ね、」
少し間を置いてから、口を開くと理佐が静かにマグカップを置いた。
「仕事、ちょっと行き詰まってて」
「うん」
「何が悪いのかも、どうしたらいいのかも、よく分からなくて」
言葉にした瞬間、曖昧だったしんどさがはっきりした形になって私の胸を締め付ける。
理佐は私の背中に、そっと手を置いた。
ただ、それだけ。理佐の体温が背中から広がって、あたたかい。
「……ごめん、休みなのに」
「いいよ」
私は理佐の肩に、ゆっくり体を預けた。
朝の光が、カーテン越しに揺れている。
背中を撫でる手の動きが、ゆっくりで、一定で、安心する。
窓の外では、遠くを走る車の音が聞こえる。
街はもう動き始めているけど、この部屋はまだゆっくり静かな時間が流れている。
「ここにいるとさ、」
「うん」
「大丈夫って思える」
理佐の胸が、小さく上下するのを感じる。
それを確かめるみたいに、私は目を閉じた。
答えは出なくてもいい。
前に進めなくてもいい。
休日の朝に、こうして座って、
同じコーヒーを飲んでいられるなら。
あたたかい飲み物と、静かな時間と、隣にいる人。
それだけで、心はちゃんと満たされていた。