ここ数年、心を病んで部屋に籠ることの多かった倅(せがれ)が、先週に続き、本日も未明から近隣の山へ向かうのを見送ったのだが、その倅が今しがた帰宅した。
下山後に風呂を浴びて来た、と、古女房に話す声音(こわね)に、幼い頃から変わらなかった倅特有の「力」と、ここ数年、沈み、或いは尖っていた話し方に、倅本来の「やさしさ」が戻って来たことが確認できた。
辛かったであろうことが容易に想像できる結婚生活、離婚、愛娘との離別等々…が、あんなに元気で明るかった倅を、別人のように痩せ衰えさせ、人と会うのも困難な状態にさせたのであろうが、ここに来て、漸く、倅は自らの手で部屋のドアを開け、自らの足で山に向かうことをした。
初秋の今日は朝から厚い雲に覆われている。
山では雨に烟(けぶ)ることもあったろう。
「パノラマは撮れんかったけど、花とかカエルとか撮ってきたよ」
そのレンズの先に倅は何を見ているのか、それはわからない。
向かう山のそこに何を見出そうとしているのか、それは倅の心が決めていくしかないのだろう。
しかし、この父にも、少しだが、わかることがある。
今は、そこを暗黙のうちに共有して、倅に寄り添っていようと思う。