道化のクレヨン
第4章「綻のヴィオロン」
隣
「れいさーん、溝口れいさーん」
笹崎さんが私を急かす。
見落としがちな路地裏の自動販売機で私はジュースを買っていた・・・
「大丈夫かなあ」メンテナンスされているかちょっと不安になる。
新発売のジュースがあるんだから誰か自動販売機の存在を知っているはず。
そう思っていると、隣の笹崎さんもジュースを買っていた。
ただし温かいお汁粉ジュース。
秋に発売した色鮮やかなジュースではなかった。
ちなみに笹崎さんのお気に入りらしい。
寒いな。と笹崎さんは上着のボタンを締めていた。
大判焼き屋からいい匂いがして思わずお腹を押さえる。
笹崎さんは何かを思い出したかのように、大判焼きかと呟いた。
もうすっかり涼しく、いや寒くなった。
第4章「綻のヴィオロン」
いつものようにギターを弾く笹崎さんの隣に私はいた。
相変わらず一枚の絵は完成してない。
だけど夏から何枚もの絵を描いた。
笹崎さんと過ごした時間の中で。
花火大会に行ったし、小旅行だってした。
そういえば何やら私の誕生日にサプライズをするみたい。
でもバレバレ。うれしいけど。
「あ。知ってる?きりんって高いところの草を食べようとして首が長くなったんだってさ。」
笹崎さんまた変なこと言い出した。
「まあ知ってますけど」意外に深い話かもしれない。
人もそんな風に進化しているらしい。
別に首が長くなるとか鼻が長くなるなんてことじゃない。
つまり周囲に適応しているということらしい。
例えば病原菌に強くなるとかサルに比べて背中が真っ直ぐであるとか。
公園の帰り道、そんな話をする笹崎さん。久しぶりに私は映画に誘った。
やっぱりだめだったけど。
付き合ってからというもの何かあまり遊びに行かなくなってしまったような。
理由はきっと笹崎さんが安心しきっているからなのかもしれない。
付き合うまで頑張るタイプなんだ。まあ最初の頃も何となくわかっていたけど。
だって少しムリしてでも頼み事をOKしてくれたり、
頑張って時間を空けてくれたり。
「わかったよ、れいさん。今度は俺から誘うね」
まあいつも私から誘ってばっかりだけど。
公園から少し歩いてから私は画材道具を見に行った。
そろそろ黄色と緑が無くなる所だったので買うことにした。
もちろん本命はお金がないので見るだけ、じっくりと・・・
店を出て携帯を見た。
今日は普段よりもお腹が空いたなあ。それに寒い。
手をこすりながら運悪く赤だった横断歩道の前でメールをチェックしていた。
『1件メール有』
笹崎さんからだ。
「映画ごめんなさい、その日は用事があったもので・・・
今度埋め合わせしますので。内容はまだ未定で(笑)
考えておくね~」
細かいことかもしれないけど笹崎さんのメールは何故かまだ敬語。普通に話すのに。
まあ手紙とかも敬語になることもあるし本当にどうでもいいことだけど。
信号が青になったので私は横断歩道を渡る。返信メールを書きながら。
・・・・・・
あれ、ちょっと立ち眩み。
んー大丈夫・・・視界が変かも。少しおかしい。
ボヤけて頭がボーっとする。
力がだんだんと抜けて私はその場にゆっくりと倒れた。
メール書きかけなのに。地面冷たいなあ。
(次回掲載予定は7/15です)