道化のクレヨン
序章「悪戯のキャンパス」
プロローグ2
公園が近くなると気になり出す。
今日もいるだろうか。
絵を描いている名前も知らないあの人。
失恋して、僕はまた恋をした。
いつかあの人に・・・
「おーい!」
静まり返っていた辺りに、大きく明るい声。
あの人ではない。
公園に差し掛かったところで不意に誰か呼ばれた。
僕は声のする方へ視線を向けた。
「おーい笹崎君。」
右斜め後ろを見ると、少し息を切らして足早に歩く上司の武藤さんがいた。
「どうしたんですか?」武藤さんに声をかけながら駆け寄った。
「おつか」お疲れ様です、と言おうとして言葉を止められた。
「笹崎君、携帯忘れたでしょ?」
間を入れず武藤さんは用件を話し始めた。
この人は常に急いでいるように見える。
そういうところは面白くて僕は好きだ。
途中まで走ってきたのだろうか、息が上がっている。
「携帯。」
反応が遅くなった僕は間抜け面だったのかもしれない。
「ああ、すみません。」いや、武藤さんも充分間抜け面だ。
「あー疲れた、もう上司を走らせやがって」
頼んでないですが。
と、いつもならそんな毒舌を吐く僕なのだが、今日は大人しい。
別に深い理由なんて無い。
仕事で大失敗して落ち込んでいるわけでも、
武藤さんに恩を感じているわけでも、
ましてや無機物とその色鮮やかな彼女に心を奪われたわけでもない。
ただ占いの結果が気になっただけだった。
8位、さそり座、軽はずみな発言に注意せよ。
毎朝の習慣になった占いだが、当たったと感じたことは特にない。
気まぐれと言ってしまえば、そうだろう。
その気まぐれで僕は素直に一言。
「ありがとうござ」
「今日は素直なんだね、珍しい」
またですか。何があっても僕に最後まで喋らせてくれないようだ。
一言くらい言わせてもらいたいですよ。心の中で苦笑。
こんな感じだ。
僕もまだ気が抜けてないようだ。
と思っていると、武藤さんは雑談を始めた。今日の武藤さんはまだ少し上司だ。
しかしそれも時間が経つにつれて段々と変わっていく。
他愛の無い話が始まったからだ。
会社のこと。
テレビ番組のこと。
最近のマイブームのこととか。
くだらない話はわりと尽きないものだ。
しかし話題が途中で止まる。唐突に。
静寂が訪れる。
少し風が強くなった。
公園を過ぎて武藤さん・・・
「お腹すいた」
「え?」
「喉が渇いた」
僕は玩具屋の前で駄々をこねる子供を見ることになるかもしれない。
(次回は作者取材のため休載します。 1/15より再開予定です)