
「開いた!!」


「全く笑えねえ…。拉致っておいて何が『おめでとう』だよ…。
とりあえずこの場所を通報…」
「脱出おめでとうございま~す!」

「こんばんは。篠崎涼です。
…アレ?何そのリアクション、まさか脱出して早々ラスボスが居るとは思ってなかった?」
「とにかく、脱出おめでとう。
その手に持ってる携帯、おそらくこの場所を通報しようとしてるよね。
そんな君に、一つ重要なことを教えてあげる。」
「この場所、実は東狼研究所じゃないんだよね。
内装はほぼ完璧に研究所に似せてるけど、場所自体は全く別の場所。
あの建物はただの借家だよ。
この場所を通報しても僕らの指紋や髪の毛は出てこないし、
部屋においてあった、動画が流れていたパソコンのデータも、
今頃アキラが綺麗さっぱり消してくれてるはずさ。」
「どういうことだ…?」

「あのねえ…。東狼研究所がテロ組織だってこと忘れてないよね。
テロ組織がそんな簡単に本部の場所を明かすわけ無いじゃ~ん。
ハナから東狼研究所じゃなかったんだよ。あの場所は。」
「…おいシノザキ、約束が違うじゃないか。
あの動画ではナナサが『あなたが勝てば研究所は壊滅』って言ってたはずだ。」
「約束は違わないよ…?
今までだって東狼研究所はそちらが勝てば爆弾やウイルスは放出しなかった。
勝ち負けを反故にするのは、東狼研究所の美学に反するからね。
だから宣言通り、東狼研究所は解散します。」
「な…。」
「でもね、僕はまだ捕まるわけには行かないんだ。
東狼研究所の解散はまだ構成員には伝えてないし、
何よりまだ東狼研究所でやり残したことがあるんだ。」
「…。」
「君にこんなこと話すのはおかしいかもしれないけど、せっかくだから話すね。
僕達がどうして東狼研究所を作ったか。
国際テロ組織のイーストウルフが壊滅した後、下請けの技術者として働いていた僕は、
なんだか毎日が燻ってるように感じてたんだ。
それで、同じように技術者として働いていたナナサと一緒に、東狼研究所を立ち上げた。
東狼研究所を立ち上げた理由も、僕達が謎を出題する理由も、
テロを起こす理由も、簡単だよ。『皆に遊んでほしいから』さ。」
「…そんな勝手な理由で。」
「ははは。君には理解できないかもね。
でもね、今の世の中、大人になるに連れて責任ばっか増えて時間は減って、
遊んでほしいのに遊んでもらえないで燻ってる人達がいっぱいいるんだ。
その証拠に、僕がこういうふうに皆に働きかけたら、
賛同者が30人以上も付いて、東狼研究所はここまで大きな組織になったじゃないか。」
「…。」
「…それに、東狼研究所に触発されて様々な団体ができた。
僕らと同じように謎を出題する団体、果ては、僕らに反旗を翻した団体もあったね。
それだけで僕は嬉しいんだ。皆が僕の思想に賛同してくれたこと、
皆が必死になって謎を解いてくれたこと、本当に嬉しいんだ。僕は幸せ者だよ。」

「…じゃあね。僕は研究所に戻るよ。
まだ皆に別れの言葉も感謝の言葉も言えてないんだ。
脱出本当におめでとう。縁があったら、また会いましょう。」
―――――――「ある研究所からの脱出」 完―――――――
