60秒のファンタジー

60秒のファンタジー

さくっと読める程度の文章を毎日追加掲載していきます。さてどこまでいくでしょう。

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「大丈夫か、ゼスト」

「怪我は?足をやられたのか」

 カンターが急いで三人の所に駆け付けたときには、ゼストが二人の矢継ぎ早の質問に弱々しく答えるところだった。

「助かったよ。いや、面目無い話だけど竜をよく見ようとして乗りだしたら、足をすべらしちまってさ」

「なんだ、竜にやられたわけじゃないのか」

「ああ、だけどみんなが来てくれなかったらどうなっていたか。あいつ、子供だとは思うけど恐かったぜ」

 ゼストにあいつと呼ばれた竜は見た目より素早い動きで草原を抜けようとしている。まだ血の気の引いたままのゼストの顔と、視界から消えそうな竜の背中を交互に見ながらカンターは何かにせき立てられるのを感じていた。それは考えるより先に言葉になっていた。

「シーク、僕は竜を追いかける」

「何言ってるんだ、カンター。戦士に成り立ての俺達に竜を追いかけるなんてできるわけないだろ、正気なのか。まずはリガードや大人にこのことを伝えなきゃ」

「だから一人で、僕だけで追うんだ」

 シークがカンターの腕を強く掴んだ。

「竜がお前の親父さんの仇なのは知っている。だけど冷静になれよ。子供の竜だって危ないし、どこかに親がいたらどうするつもりだ」

 カンターはその目をじっと見た。

「頼む、シーク。もう間に合わなくなってしまう」

 シークの腕の力が緩んだ。長い付き合いのシークには、こういうときのカンターがどれだけ強情なのかよくわかっている。何を言っても無駄だと悟ったのか、シークはぼそりと言った。

「わかった。俺も行くよ」

「だめだ。シークとモスはどちらかが急いでリガードたちに報告するんだ。もう一人はゼストについていてくれ」

 カンターは腰に巻いた革のベルトから木剣を抜き取り、震えの弱くなった剣を差し込みながら三人に背を向けた。

「カンター、深追いするなよ。絶対だぞ」

 カンターの前には竜が踏みしだいた青い草が倒れたままになっている。それはカンターを新しい世界に誘う一本の道のように真っ直ぐに伸びていた。

「カンター、シーク、大変だ」

 どかどかと床を踏みならしてモスが二人のいる部屋に飛び込んできた。真っ赤な顔で息を切らしている。よっぽど全速力で走ってきたのだろう。

「どうした、モス」

「竜が、竜が出たんだ」

「竜だって?」

 シークが頓狂な大声を上げる。カンターは突然頭に血が上るのを感じた。

「早く来てくれ。ゼストが見張っているんだ」

 カンターは迷わず棚の中で震える剣を手に取った。思ったとおり柄の握りは手のひらに吸い付き、震えは嘘のようにぴたりと止んだ。重さも長さもカンターのためにあつらえたみたいだ。三人はモスを先頭に部屋の外に駈け出した。

「こっちだ」

 モスが指差して走る方向はアランじいの家よりさらに登って、山の裏側に通じている。そんな所に部族の人間は住んでいない。するとゼストは竜のそばに一人でいるのか。危険だ。三人は膝まである緑の雑草をかき分けながら必死で走った。

「それにしても、戦士になったばかりで、竜が出てくるなんて、タイミング、良すぎないか」

 シークがあえぎながら言った。わざわざ話しかけるのはシークがいつになく緊張し、不安を感じているからだろう。カンターはモスの背中に声をかけた。

「モス、竜は何匹いるんだ」

「わからん。俺が見たのは一匹だけだ。でも俺はすぐにお前たちを呼びに来たからな」

 モスが速度を落とした。草原を抜けてまたゴツゴツした大岩が肌を見せていた。

「ここだ、あれ、ゼストがいたはずなのに。どうしたんだろう」

 カンターとシークを振り向いてまた周囲を見回す。

「まさか」

 モスの唇が震えていた。それはまだ少年の怯えた顔だった。

「しっ」

 シークの低い声が飛んだ。シークはかがんでその姿勢のまま前に進んだ。岩の上にゆっくりと腹這いになる。左手を上から下に振って後の二人にも同じ格好をするように合図した。日に焼けた岩はかなり熱くなっていてカンターは肘と膝で身体を支えた。シークはどうやら岩の向こう、崖のように窪んだ草地に何かを見つけたらしい。追い付いて頭を寄せ合ったところでシークが指を突きだした。

「モス、あれだろ」

 シークの指の先をたどったところに確かにそれはいた。

「あれが竜か」

 薄黄色の皮膚、鳥を思わせる細長い頭にはめ込んだような真円の目、後ろ足で立ち上がったその肩の辺りに一組の突起がある。カンターは実際に竜を見るのは初めてだった。それは他の三人も同じ筈だ。ただ戦士たちの話や、描かれた戦いの絵の中に登場する恐ろしい竜と今見ている竜はどこか違う気がする。そう、大人たちがあれほど恐れる迫力が感じられない。

「おい、あの竜、小さくないか」

 シークが拍子抜けしたように小声で言った。カンターと同じ感想を持ったようだ。竜の近くの木立と比較するとわかるがどう見てもカンターの胸くらいまでしかない。戦士になったばかりの若者たちが今まで聞かされていた竜は、大人が見上げるほどの大きさであるはずだ。

「子供なのかな。あんまり恐そうじゃないけど。モス、本当にあれだったのかい」

 カンターとシークに疑い深げに見られてゼストは慌てたようだ。

「いや、もっと大きかったと思うんだけど。それに子供だって危なくないってことはないだろ。あっ」

 竜がゆっくりとカンターたちのいる方向に歩きだしている。同時に三人の下の方から誰かの呻き声が聞こえた。カンターはすぐに腹ばいのまま前に進んで、岩の切れ目から下を覗き込んだ。

「ゼスト、そこか」

 崖の下の窪みに尻餅をついて座ったまま竜に向かって剣を構えているゼストがいた。竜が上から見下ろす三人に気がついたのか威嚇するように鋭く尖った牙を見せた。モスの言うとおりかも知れない。あの牙で噛まれたら子供の竜だろうが大変な怪我になる。

「カンター」

 安堵と緊張の入り交じった顔で見上げるゼストの視線を振り払い、カンターは近くの石を拾って思い切り竜に向かって投げつけた。シークとモスは左手のかろうじて降りられそうな岩場を転びそうになりながら駈け降りている。カンターはアランじいの倉庫から失敬してきた剣を右手に構えて、岩の上に立ち上がった。腕が震える。震えるほど恐いのか。自問したカンターは一旦止んだ筈の剣の震えが戻っていることに気が付いた。

もしも竜が次に一歩でもゼストに近寄ったら今度はこの剣を投げるか、思い切って竜とゼストの間に飛び降りるつもりだった。しかし竜は石に驚いたのか後ずさりし、シークとモスが殺到するのを見て慌てたように黄色い背を見せて逃げ始めた。

「おい、さっきより大きくなってないか」

 シークがささやく。いつのまにか剣を右手に持っている。

「うん、まちがいなくこの部屋の中で何かが動いている」

 カンターは扉を少しずつ押した。ジリッという砂と木のこすれる音をたてながら扉が開いた。二人の目の前にはそれまでの半分くらいの広さの部屋に山と積まれた古い剣があった。どれも錆や汚れが付着していて柄のついてない刀身だけのものも多い。

「カンター、一番奥の方だ」

 誰も居ないし、天井の明り取り以外窓のない部屋の中には何かを揺らすような風もない。音を立てるようなものは何もないのだが、どこからか聞こえるそれは耳障りなほどになっていた。二人は剣の山をよけて部屋の奥に進んだ。奥の壁には作り付けの棚があり、中のものを隠すように上から大きな布が掛けられていた。黄ばんだ布が音を発している何ものかの振動で揺れている。

カンターは布の端を持ってシークの顔を見た。シークがうなずいた。唾を飲み込む音がした。カンターはそっと引っ張ったつもりだったが、布は落ちると同時に棚の上に積もった埃を撒き散らした。思わず目を覆った指のすき間から震える何かが見えた。

 それは一振りの剣だった。

「け、剣が動いている」

 シークが声を上げ、カンターは息を飲んだ。木で作られた棚には五本の剣が切っ先を下に向けて吊るされている。それぞれの剣のすき間は指一本ほどしかない。左右に震えて隣の剣にぶつかって音を立てているのは右から三本目の剣だった。

五本の剣はどれも一目で古いが素晴らしい出来栄えの剣であることがわかった。柄に刻まれた複雑な紋様はこれまで見た剣の中には見当たらないほど精妙で芸術の域に達している。また握りの部分に埋め込まれているように見える玉は宝石の類かもしれない。カンターは目の前で震えている剣を手にとって抱きしめたい衝動に襲われていた。

「こんな剣、誰が造ったんだ。見たこともないぞ」

 シークが唸った。

 これは僕の剣だ。この剣が僕を呼んでいたんだ。最初に感じたあのなつかしさの理由がわかった。カンターは少しおののきながら剣の柄に右手を伸ばした。

「俺達、外に出て思いきり振ってみるよ。ここじゃ危ないからな」

 モスがそう言ってゼストと二人で倉庫を出ていった。カンターもシークと逆の壁に沿って改めてじっくり剣を見た。長さがちょうど頃合いの一本を手に取ってみる。ずっしりと重い。右腰に提げているもうすぐ用済みの短い木剣がひどく頼りないものに感じる。次々に試してみるが、どうもしっくりこない。何本目かの刀身に深く長い傷がついていた。これは誰がどんな竜につけられたものだろう。竜の牙は剣よりも硬いのだろうか。まだ相対したことのない竜を想像し始めたカンターをシークが妙に低い声で呼んだ。

「おい、カンター。なにか聞こえないか」

「なにかって、僕には別に・・・・」

 言いながら耳を澄ます。木々のざわめき、遠くでかすかに流れる水音以外には気がつかない。いやまてよ。

「なんだろう、カタカタ音がしているみたいだ」

「それだよ。俺には奥の部屋から聞こえてくるような気がするんだ」

 奥の部屋にはアランじいが昔の剣を収めてあるとさっき言っていた。確かにそっちの方から、こもってはいるが金属を叩くような高い音が響いてくる。

「誰か居るのかな」

「いや、アランじいは弟子もとらないって親父が言っていた。いつも一人のはずだぜ」

「行ってみよう」

 カンターは奥の部屋に通じる扉の方にそっと歩いていった。黒ずんだ扉の前に立つと音ははっきりと聞こえるようになった。

兄貴に親父か。ほんの一瞬言葉を失ったカンターの肩に手が回された。

「そのコツってやつを俺達にも教えてくれよ、なあカンター」

 シークが威勢のいい声を出していた。

「そうだな、まず重さだけど利き腕じゃないほうの手で柄を持って水平に保てるぐらいがいいってさ」

 カンターはゼストの剣を借りて左手でやってみた。辛うじて先端が水平になるまで上がったが、すぐにまたおじぎをしてしまう。

「重い、これは僕には無理だよ」

 ゼストは少し得意になったように続けて言う。

「長さは欲張らないで喉仏からへそまでの長さが一番扱いやすいらしいぞ。長いと持ち運びに苦労するし、森みたいに狭いところで不利なんだ」

 最後の方はまるで自分が使ったことがあるような言い方だったが、もしかしたら親父さんにそこまで仕込まれていたのかも知れないとカンターは感じた。確かに剣は右脇から背中に回して切っ先を左の尻に垂らすようにするので余計な長さはじゃまになる。

「後はアランじいの手間は別にしてやっぱり新しいほうがいい。古い剣を基にすると強く打ったときに折れることがあるんだ」

「ふうん、なるほどな。おい、カンター。俺達もさっそく探そうぜ」

 シークが壁に寄って剣を見比べ始めた。

どこまでも深く澄んだ冷たい水を汲んだバケツを、アランじいの作業場に置いてから二人は隣にある倉庫に入っていった。

「すげえ、こんなにあるんだ」

 戸口から入った瞬間にシークが声を上げた。そのシークを押すようにしてカンターも部屋に足を踏み入れた。高い屋根に嵌められた四角い天窓から入る光が数百本の剣を照らしている。剣は壁に沿って立て掛けられ、柄の部分が木で作った枠組みで一本ずつ支えられている。

戦士になったばかりの若者には息を飲む厳粛な光景だった。日の光とそれを反射する剣の刃は倉庫に漂う細かい埃や塵を浮かび上がらせている。それは手を伸ばせば重々しく濃密な空間が掴めるような錯覚を与えていた。カンターはなぜか何ともいえない懐かしさを感じて聞いた。

「ねえ、シーク。ここに来たのは初めてだっけ」

「あたりまえだろ。ここは戦士かアランじいしか入っちゃいけないんだ」

 シークの声も少し上ずっていた。

「そうか、そうだよな」

 カンターはゆっくりと部屋の中を歩き始めた。剣は長さも太さも様々で、柄にはこれも色々な装飾が施されている。ハットおじさんの言うとおりアランじいの腕は確かなんだとカンターは思った。背後でガタンと音がして思わず振り向くとモスとゼストがそれぞれ剣を構えて立っていた。

「どうだ、強そうに見えるだろう、カンター」

「びっくりさせるなよ、二人とも。なんだ、もう選んだのかい」

「ああ、実は前から兄貴の剣を振らせてもらっていたのさ。それと同じくらいの剣を探したんだ。やっぱり長さや重さに馴れているほうがいいだろ」

 モスが片手で剣を振りながら言った。その横でゼストも続ける。

「俺も親父の剣で毎朝仕込まれていたんだ。毎朝だぜ。いつまでも子供と一緒に紫草探しじゃいかんぞって言われてな。だから昨夜、リガードに名前を呼ばれた時から親父がもう舞い上がっちまってさ。剣を選ぶコツをずうっと教えられてたんだ。まあおかげで寝不足だけど選ぶのには結構役に立ったよ」

長老の年もわからないがアランじいもこれまた何歳なんだろう。成りたての戦士たちがさすがに全員息を切らせて作業場まで着いたとき、アランじいが両手にバケツを提げて戸口から走り出してきた。じいと呼ぶのも失礼なほど元気だ。背は子供ぐらいしかないが、頭と手がちょっと不格好なほどに大きい。

「おお、ちょうどいいわ、がきども。そこの川から水を汲んできてくれ」

「がきどもってご挨拶だな、じいさん。俺達昨日戦士になったんだぜ」

 シークが皆を代表するようにちょっと胸をはって言った。アランじいは大きな眼でぎょろりと四人を見渡してからバケツをその場に音を立てて落とした。

「戦士だろうがなんだろうが、わしにはがきにしか見えんわ。ぐずぐず言っとると剣なんぞ見せてやらん」

「ああっ、それは困るよ。わかった、すぐ汲んでくるから」

 シークが慌ててアランじいの足元からバケツを拾い上げた。振り向いてカンターに一つを差し出す。

「そういうことだ、カンター。一緒に行くぞ」

 何がそういうことだ、まったく。

「じゃあ、ちょっと川まで行ってくるから」

 カンターはモスとゼストに向かってバケツを上げて見せた。

「ご苦労さん、俺達は剣の倉庫に先に行っているよ。いいだろ、アランじい」

 ゼストが言った。

「おお、あんまり散らかさんようにな。それと最近の剣は手前の部屋にあるからそこから選ぶんじゃぞ。昔のやつは鍛え直すのが難儀じゃからな」

「わかったよ、アランじい」

 ゼストがアランじいに答えながらカンターとシークに向かって片目をつぶってみせた。

「みんな、少し休憩しようや」

 シークが息をはずませている。

「なんだ、もう疲れたのか、シーク」

 モスとゼストは涼しい顔をしている。カンターもじわりと汗が出始めていた。二人とも相当身体を鍛えているんだろうな。二人はカンターたちより二つ年上になる。それこそいつ戦士になっても恥ずかしくないようにいつも鍛練していたのだろう。

「ちょっとぐらい、いいだろ」

 そう言いながら木の株に座り込んだシークの横でカンターは大きく伸びをした。若葉の匂いを胸いっぱいに吸い込む。山と丘に四方を囲まれた集落は盆地というより窪みのような地形にあった。北から東にかけて峰を連ねる山にはさまざまな樹木が緑の衣を着せている。所々に白くもやっているのは木々の雄花が撒き散らした花粉だろう。南西に位置する小高い丘は赤茶色の地肌を見せている。その隣には灰色の板のような石切り場が見える。カンターたちの登りかけている山から集落を貫いてきらきらと滑る一筋の川がその山と丘の間を流れていく。

緑と赤茶色に縁取られた円の中、カンターの部族には紫草から難を逃れた小麦畑が青々とした絨毯を敷いたように広がる。いずれその絨毯は黄金色に姿を変えることだろう。

刈り入れが終わったらまた昨夜のようにお祝いだ。

「きれいだな、シーク」

 なかば独り言のようにつぶやいた。

「また自分の世界に浸っているな」

 シークが笑いながら立ち上がった。

「みんなお待たせ。さあいこうか」

アランじいの家兼作業所は山の中腹にあり、傍らを底の底まで見えるきれいな小川が流れている。刃物を打つのには大量の水が必要なのだろう。せせらぎがかすかに聞こえ始めたあたりで、前方に二人の男が立っているのが見えた。

「あれ、シーク。あそこにいるのは誰だろう」

「なに言ってんだよ。よく見ろよ。モスとゼストだよ」

 近づきながら目を細めて見ると確かにそうだ。体格のいいモスと痩せぎすのゼストもこちらに気がついて手を振っている。戦士になった四人が顔を揃えたことになる。

「すごい、偶然だね。あの二人も剣を見に行くのかな」

驚いているカンターにシークがあきれた顔をした。

「戦士になったら、一刻も早く木剣を剣に替えるってのは常識じゃないか。お前は夕べ広場から居なくなっちまったろ。探したんだぞ。でも見つからなかったから俺達三人でとにかく今日剣を決めに行こうって話しあったのさ」

「よう、カンター。昨日はどこに行ってたんだ」

 モスがカンターに聞いた。

「きっと女の子のところに行って戦士になった報告でもしたんだろ」

 ゼストもニヤニヤしながら続けた。

「ち、違うって。酔っ払ってさ、ちょっと静かなところで休んでいただけさ」

 カンターはまたしどろもどろになってしまう。シークにもこの二人にもいつか長老に聞いた話を打ち明ける時がくるのだろうか。

 四人はそろってアランじいの家に向かう山道を登り始めた。子供の腕ほどの木が足掛かりに埋め込まれているだけの急な道だった。せいぜい大人一人分位の幅しかない。

膝が胸につきそうな岩場を越えたところで突然景色が広がった。そこは見晴らし処と呼ばれていて、部族が一望できる場所だった。

「それとな、アランは腕は確かだが仕事が遅いからな。できるだけ今日のうちに決めてしまったほうがいいぞ」

 パンは食べずにこめかみを揉みながらスープのお替りを頼むハットおじさんが言った。

「竜はいつ来るかわからないからねえ」

 大きななべからおばさんがスープをよそりながら続ける」

「紫草が蕾をつけたとなると、そう遠いことでもないかもしれないね」

「脅かすなよ、おふくろ」

「それと、シークもカンターの剣選びを手伝ってやるんだぞ」

「わかっているよ、親父。こいつはぼうっとしているからな。俺の剣の次にいいやつを見っけてやるさ」

「カンターはお人好しだからねえ。長さが足りなかったり刃こぼれが気になったりしたら遠慮しないでちゃんとアランじいに注文するんだよ」

 ソプラおばさんも口をはさんだ。

ぼうっとしている? お人好し? なんかずいぶんな言われようだなと思いながらカンターはスープの残りを飲み干した。

「さっ、シーク行こうか。おばさん、ごちそうさん」