今日は小雨の降る日。
ちょっと肌寒い。

車で仕事場まで送ってもらって
いつも通りの一日が始まった。

お茶を買いに仕事場の食堂へ。
帰りにサボって煙草を吸う。


ひときわ、大きな仔猫の鳴き声がする。

迷子か?親猫は?

いてもたってもいられなくなって

声のする方へ。

階段を降りると一台のトラックと
隣に佇むおじさん。


仔猫はどこだ!?


仔猫の声はトラックから聞こえる。

檻に入っていた。

小さな体をしているのに

鳴き声はとても大きい。

二匹の仔猫がいた。

茶トラと三毛猫。

三毛猫はほとんど黒色で

目は澄んだ青色をしていた。


仔猫と目が合い、

とっさにおじさんに聞いた。


『この子達は…?』


悲しそうな目で答えた。


「捨て猫だよ。可哀想にねぇ。分かってるんだろうねぇ。」


仔猫達をじっと見つめる私に

気付いたのか近寄ってくる。

あんなに大きかった鳴き声は止んでいて

必死に私に近付こうとしている。

私をじっと見つめたまま。

小さな体で、足で、

檻をよじ登ってきた。


体は所々黒い泥が付いていて

汚れていた。


触っていいものか悩んだ。


おじさんにまた聞く。


『これから保健所ですか?即日処分なんですか?』


「大丈夫だよ、2、3日ならいるよ。」


仕事中で引き取れないこと、保護したい意向を伝えた。

おじさんの悲しい顔は消えなかった。

トラックが、去っていく。


次の休憩時間、急いで友達へメール。

私に何ができる?

どうしたらいい?

仕事中も二匹の事が頭から離れない。


仕事が終わり、保健所へ急いで電話する。



『あの子達はいますか!?』



特徴や場所を伝えた。



「今日の処分は終わりました。」



きっと冷たくなかった。

きちんと理由や成り行きを説明してくれた。

納得できるよう、話してくれた。

でも、私が確認したかったのは

あの子達がどこにいるのか、

ただそれだけだった。

何も耳に入らない。

早く迎えに行ってあげなきゃ。


帰りの車では一言も話さなかった。

迎えにきてくれた母に何も話せなかった。

本当なら、あの子達の話をするつもりだったから。

そんな私は、
涙を堪える事しかできなかった。


駐車場から家までの短い距離。

お母さんが、傘に入るか?と聞いてきた。

ううん、と一言断った。

小雨が降っていた。


家に着き、部屋に入る。


もう一度保健所へ電話をした。

本当にあの子達はいないのか。

もしかしたらまだ生きているのでは?


答えは同じだった。


処分は昼に終わったらしい。


私が呑気にご飯を食べているとき。

あの子達はその時を迎えていた。


仕事がなんてどうとでもなった。

方法なんていくらでもあった。


どうして、あの子達と私の時間が

すれ違ってしまったのか。


確かに、同じ場所にいたのに。


あの時抱き上げていたら。

あの時引き取っていたら。

あの時電話をしていたら。


全てがずれていた。


朝連絡した友達へ電話した。

たくさん言葉をくれたけど、

よく思い出せない。



自分の事は悔いても

君達に出会えた事は悔いていない。


あの瞬間から君達は私にとって

特別になったから。


絶対に今日を忘れない。




空と陸。


体は陸へ、心は空へ。

空と陸は離れているようで

ちゃんと繋がってる。

私にも繋がってる。


救ってあげられなかっけれど

空と陸、ずっと一緒だよ。

ずっと覚えてるよ。


私の手のひらは、

まだまだこんなに空いているのに

どうして救えなかったんだろう。


きっと陸と空が教えてくれた。


命の輝きの尊さ。

刹那の儚さ。


ありがとう。ごめんね。


次もまた、会いにきてね。


待ってるからね。