マセラティ ギブリ(M157)。お客様の紹介の方で、いろいろな不具合があるとの事で初めての入庫となる。

症状を聞くと、エアコン操作パネルにランプが点灯せず、エアコン操作ができない。ただ、ブロアファンは最大風速で回っていて、ヒータが全開。
パワーウィンドが助手席(フロント左)以外、操作できない。また、サッシュレスドアの為、ドアを開けるとガラスが少し下がるのだが(ワンショット)、フロント左以外はドアが開いているにもかかわらず、少し下がった後すぐに上がってしまう。
キーのオン、オフ操作でのイージーエントリ(シートの前後動作とステアリングコラムのアップ、ダウン)が作動しない。シートはスイッチによる操作はできるが、ステアリングコラムはスイッチでも操作できない。
ドアミラーの格納ができない。
お客様によると、時々症状が出なくなるときがあるが、その時は全ての不具合が解消されるという。
ひとまずテスタで診断してみた。

このテスタのトポロジー、使用していないECUも赤表示されるので解りにくいのだが、症状に関連するであろうDDM(フロント右ドア)、DMRL(リア左ドア)、DMRR(リア右ドア)、MSM(シート)、HVAC (エアコン)が赤表示となっている。テスタがECUと通信できないと赤表示となり、それはECUが作動していない、もしくは診断にはCANを用いているので、CANラインの不具合が考えられる。
残念ながら、この車の配線図といった資料は手に入れることが出来なかった。だが、無いなら無いなりに想像力を働かせてみるしかない。
DDR、DMRL、DMRRはワンショットが作動しドアロックも作動する。MSMはスイッチ操作でシートが作動することからECUは動いている(電源は正常)と思われる。あとはHVACだが、ヒューズを点検した結果、良好。コネクタには+15、+30、アースがそれぞれ1本ずつ入力されていた。2本以上の入力があるかもしれないが、とりあえず電源はOKとした。
いい時は全ての症状が解消される為、原因は1ヶ所と思われる。どれかのECU内部の不具合が原因かと思い、1ヶづつECUのコネクタを抜いていったが、変化は無かった。
次にCANラインを調べることにした。いちばん点検しやすいHVACのコネクタで、より線を探すと1組発見できたので、オシロスコープで点検すると、CANらしき信号だが異常な波形が測定された。

やはりCAN信号の異常が原因のようである。通信できないECUは、同じツリー上にあるのだろう。ワイヤハーネスをたどって行くとBCM (ボディコンピュータ)に一番近いのはHVACのようだ。BCMコネクタでCAN配線を探す。今回の不具合はB-CAN(低速CAN)で、そのより線は2ヶ所のコネクタに接続されていた。それぞれ点検すると、HVACと接続されている配線を発見。CANライン2本のうち1本が断線していた。

ここでもう1組のB-CANラインからジャンプ線を使って、HVACのコネクタに入力してやると、症状は全て解消された。やはりCANラインの断線が原因だった。正常な時の波形。

原因がわかれば、断線を修理すればいいのだが、どこで断線しているのかを突き止めるのは厄介だ。みたところBCMからHVACまでは中継コネクタを使用していないようで、点検にはダッシュボードを取外し、ワイヤハーネスをばらしてみないと解らない。もしかしたら、別のECU経由でHVACに入っているのかもしれないが、配線図がないので、こちらも解らない。ただHVACコネクタにCAN信号を入力して、すべてが解消したので、お客様と相談の結果、この修理方法で進める事とした。
幸いにもB-CANスターコネクタに1ヶ所空端子があったのでこれを利用することとした。HVACコネクタにCANラインを割り込ませる。短いけど、一応より線処理。

テサテープで純正配線っぽく仕上げる。

スターコネクタに接続。

信号系の配線追加なので、いろいろな乗り方で試運転をくり返す。問題が無く、症状が全て解消されたことを確認して、修理完了です。