　徐京植さんが急にいなくなったショックを引きずっている。稀有な批評家、思想家だった。ああいう人はもう出てこないだろうなと思う。存在の大きさに今さらながらに気づく。今は朴保さんの歌を聞いて勇気をもらっている。ちょうど一昨日，東京新聞が朴保を取り上げていた。そこに次のような朴の発言がある。本当にその通りだと思った。

歌だけで世の中は変わらないでしょう。ただ誰かが何かを変えたいと思ったときに，勇気を与えることならできると思う。

テレビやラジオでは流れない歌だけど…　反戦、反核、反原発を貫く在日コリアンミュージシャン朴保の生き様：東京新聞 TOKYO Web韓国人の父と日本人の母との間に生まれた在日コリアン2世のミュージシャン、朴保（パク・ポー、68）が来年、デビュー45周年を迎える。ロッ...

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　朴保もまた，徐京植さんが言う「真実を語り続ける人々」の中の一人なのだろう。勝算があろうとなかろうと，売れようと売れまいと，どんなに弾圧されても，反戦，反核，反原発を歌い続ける。これが朴保という生き方。徐さんなら言うだろう，こういう人こそ「私たちの友である」と。

反体制だと生きにくいのはその通りですよ。仕事も限られる。原発に反対すると貸してくれない会場がある。おかしいんですよ，この国が。でも黙っていても世の中は変わらないから歌い続けるしかない。

　朴は「アーティストは民衆の代弁者」と言っているが，そういうアーティスト，ミュージシャンが日本にいるだろうか。朴保をおいて他にいないだろう。朴の眼差しは，民衆の中でも，沖縄の人々，アイヌ民族，日本帝国主義に人生を奪われた韓国・朝鮮人など虐げられた人たちに常に向いている。

　そういう朴の代表曲の一つが，このブログでも何回か取り上げた「傷痍軍人の歌」である。この歌には「戦争はまだ終わっていない！」というメッセージが込められている。その戦争とは直接には第二次世界大戦，アジア太平洋戦争のことであろう。だが，現在のパレスチナ紛争の状況を見ると，私には第一次世界大戦もまだ終わっていないのではないかと強く感じるわけである。

　言うまでもなく第一次大戦と第二次大戦はつながっている。とりわけ第一次大戦の戦後処理の失敗が第二次大戦とホロコーストにつながった。そして，ホロコーストの煽りを受ける形でパレスチナ難民問題が発生し，現在パレスチナでは史上稀に見る大虐殺が行われている。その意味で第一次大戦はまだ終わっていないのだ！戦争を終わらせることがいかに難しいかを思わざるを得ない。

　日本も第一次大戦の戦後処理に深く関わり，パレスチナ問題にも責任の一端を負っていることは前にも書いた。そういう日本が現在はイスラエル＝米国に追従するばかりで，パレスチナ解放に積極的にコミットしようとしないのは，虐殺に加担しているのと同じだ。日本にとっても第一次大戦は全く終わっていないのだ。

　そういった現状を踏まえると，「戦争はまだ終わっていない」という朴のメッセージは，第二次大戦のことだけではなく，あらゆる戦争に反対する普遍的な反戦のメッセージとして私たちに響いてくる。だから絶対に戦争を起こしてはいけない，戦争に加担してはならない、戦争に反対しようという強い決意，勇気が、この歌を聴くと湧いてくる。

　パレスチナは，欧米近代の普遍主義が作り上げた「戦後」というものが欺瞞に満ちたものであることを明らかにした。パレスチナ人や在日韓国・朝鮮人をはじめ，未だ戦後を迎えていない各地の抑圧されたマイノリティたちが連帯できるような「新しい普遍性」を，私は朴の歌に感じるわけである。真実を語るとはそういうことなんだと思う…

だけど、だけど現実は
戦争はまだ終わっていないのさ
オモニの涙が分るかよ
アボジの歩いた長い道が

　　・　・　・

戦争はまだ終わっていない！