　先日の長崎原爆の日にBSの報道番組に小泉悠が出ていて、冒頭で「昨日まで出張で長崎に行っていたのだが8月9日が長崎原爆の日であることをすっかり忘れていた」というようなことを話して、「このように実感が薄れてきているのは仕方がない」と勝手に納得していた。この日の番組のテーマは「核抑止論」。こんな奴がマスコミで核抑止とか戦争のことを語って大丈夫なのかと不安を覚えたが、やはりその不安は的中した。

　広島・長崎が思考の原点にないから、核抑止論が破綻していることを言えない。むしろそれは今も機能していると言い張っている。頭の中が冷戦期のままなのだ。せいぜい、プーチンが核を使う可能性は低いという根拠のない楽観的観測しか言えない。それは、同じ番組に出ていた高橋何チャラという防衛研究所の人間も同じだ。核抑止力は核廃絶と対立し合うものではないとして核抑止論を正当化し、したがって広島ビジョンを擁護していた。

　この人たちはダメだと私は思った。核も戦争も他人事なのだ。それは広島・長崎を自分事として考え、追体験してこなかったからだろう。広島・長崎の人たち被爆者を犠牲にし、その上に戦後日本は成長と豊かさを築いてきたことを全く理解していない。だから、小泉のように8月9日を忘れても仕方がないと，マスコミで平気で発言できる。

　でも本当に仕方がないのか。広島・長崎を忘れている奴が国際政治とか安全保障論を偉そうにマスコミで語っているから、社会全体で広島・長崎の記憶が薄れ、風化に拍車がかかっているのではないか。小泉は「実感が薄れている」と他人事のように話していたが、それが自分事であることに気づいていない。大学の先生のような社会で指導的な立場にある人間が広島・長崎を知らなければ、それを知らない人はますます増えていくだろう。小泉自身が広島・長崎の風化に加担しているのだ。

　本当に風化は仕方がない現象なのか――ここでもう一度よく考えてみよう。日本から遠く離れた中米のキューバでは、広島・長崎のことを知らない人はほとんどいない。平和教育が徹底していて、初等教育では広島・長崎を必ず取り上げる。キューバの子供たちは広島と長崎に原爆が投下された日を知っている。今もキューバの人たちは広島・長崎のことを忘れていないのだ。

キューバで託された折り鶴、被爆地の小学生が奉納　ゲバラの縁 | 毎日新聞　カリブ海に浮かぶ島国、キューバの小学生が平和を祈って折り鶴を作り、託された広島市立本川小（中区）の児童と在日キューバ大使館のダイロン・オヘダ二等書記官らが5日、平和記念公園（中区）の「原爆の子の像」にささげた。

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　前にもよく書いたことだが、こういうキューバのお国柄はゲバラの影響が大きい。1959年、キューバ革命直後、来日していたゲバラは広島を電撃訪問し、慰霊碑に献花した。原爆資料館を見学したゲバラは、「これからは広島を広島の人を愛していこう」との名言を残した。そして、広島の原爆惨禍をキューバ国民に伝え、平和教育を広めた。後にカストロも広島を訪れ、「人類は未だにヒロシマから教訓を学び取れていない」「核兵器よりも強いのは人間の勇気だ」と述べて改めて核廃絶の決意を示した。

　広島・長崎の教訓を受け継いでいこうという、ゲバラ・カストロの進めたキューバの平和教育はノーベル平和賞級に素晴らしいと私は思う。風化は仕方がないと諦める前に、こういう平和教育や平和運動をやれよと言いたい。広島・長崎の風化が戦争と核使用を近づけるという危機感が小泉には完全に欠如している。したがって彼には国際政治や安全保障を語る資格も資質もない。もうこれ以上マスコミに出てくるな！下のゲバラ・カストロの意志や決意を自分の胸に刻んでから、出直してこい！

平和のために断固闘うにはこの地を訪れるべきだと思う

　　（ゲバラが広島から妻に宛てたハガキ）

このような残虐な行為を、決してまた犯すことのないように

　　（原爆資料館の芳名帳にカストロが書き残した言葉）

ヒロシマ、ナガサキ、そしてキューバ